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ミチナガの提案


あの後、空が明るくなり始めた頃に宿へと戻った俺とレイナは、部屋の前で別れギリギリまで睡眠を取った。

それから少し遅めの朝食を取り、その後で皆に声をかけて部屋に集まる。


そこでレイナが昨夜取り乱してしまった事を皆に謝り、もう落ち着いたので今日は大丈夫だという事を伝える。

そして、昨日は話し合いの途中で抜けてしまったリズとセオ、眠っていたテオにミチナガから聞いたキキョウの過去を話す。

リズ達も昨夜のキキョウの態度は少し変だと思っていたようで、キキョウの過去話を聞いて三人とも納得したようだ。


キキョウの過去を伝えた後はお詫びの件に話は移り、皆で意見を出し合い要望がある程度纏まったところで宿に近付いてくる反応を捉えた。


「ミチナガさん達来たよ、下に降りようか」


皆を促し軽く準備をした後で部屋を出る、そこに宿の店員が上がってきた。


「あっ、皆さんお揃いで丁度良かった。村長がミチナガさん達を連れて来たので食堂までお願い出来ますか?」


「わかりました」


俺達を呼びに来た店員に頷き、後をついて食堂に向かう、食堂では既に昨日と同じメンバーが席についていた。


先導する店員に続き、俺、テオ、リズ、レイナ、セオの順番で食堂に入る。

昨日の初顔合わせよりは幾分柔らかい雰囲気だったのだが、レイナが入って来た事で食堂にピリッとした空気が流れる。


だが全員が食堂に入って直ぐにレイナが頭を下げた事で、その空気が困惑した物に変わる。


そしてレイナが体を縮こまらせているキキョウに向かって口を開いた。


「昨日は感情的になってすいませんでした。一晩経って気持ちの整理もついて、冷静に考えてみると誰かを責める程の被害は受けていないと気付きました。なので昨日の発言は忘れてもらえると有り難いです」


レイナの口調はまだ少し硬かったが、それでもそれを聞いて緊張していた食堂の空気も解れる。

村長や宿の店員はホッとした顔を見せ、ミョーオやタイジュ、ケジローは笑顔で顔を見合わせている、キキョウの目は少し泳いでいたが、その隣にいる、片目を開けてレイナを見ていたミチナガも何か納得したように少し頷いた。


それから席についた俺達に、先ずは村長が感謝の言葉を述べる。


「昨日も言いましたがのう、改めて言わせもらいたい。村を救っていただいて、本当に感謝しております」


そう言って頭を下げた後、村長は少し大きめの巾着袋をテーブルの上に置く。


「それで、村からの謝礼の件なんですがのう。昨日捕まえた盗賊を奴隷にして手に入る金銭、その半分でよろしいかのう?これにはミチナガ殿から奴隷の今の相場を聞いて、その金額の半分が入っておる」


「え?いや、俺達は別に謝礼が欲しくて助けに入った訳では無いので、特にお金や何かを村に要求するつもりは無いのですが…」


宿の店員が村長から巾着袋を受け取り、俺の所に持って来ようとするのを手で遮りながら慌てて声を出す。


ミチナガ達からのお詫びは、俺とリズも痛い思いをしたし、レイナやテオ、セオにも心配をかけたという事でキッチリと要求するつもりではあるが、村に助けに入ったのは完全に俺達の自己満足なので最初から村に何かを要求するつもりは無かった。

なんなら昨日宿に泊めてもらった事、昨日の夕食と今日の朝食、それと昼食までをタダで食べさせてもらえるのでそれで十分だ。


そう伝えても村長は何も無しでは気が済まないという、それならという事で村からの謝礼は金銭ではなく色々な食材をお願い出来ないかと伝える。

それに加え、今日の昼食を作る時にレイナとセオに調理する所を見せて欲しいと言うと、村長と宿の店員は困惑しながらもそんな事で良いならと引き下がってくれた。

その時に宿の店員にはなるべくヒズールでの一般的な調理をレイナとセオに見せてほしい事も伝える、どうやら昨日の夕食や今日の朝食は外から来た俺達に合わせて作っていたようなのだ。


「ふむ、そちらの話はついたようなので次は儂らの番じゃな」


村長とのやり取りが一段落ついたところで、村長と俺達のやり取りを無言で見ていたミチナガが口を開く。

俺はミチナガに一つ頷き、皆と話し合った要求を伝える。


皆で話し合った俺達の要求は、まずは腕の良い鍛冶屋を紹介してほしいというのが一つ、それから刀を打つのに使える素材の中で、特に魔力との親和性が高い素材の情報が一つ、ヒズールでのオススメや珍しい食材の情報が一つ、最後に俺達を鍛えてくれそうな人物の情報と出来ればその人物への紹介だ。


「この要求全部を飲んでほしいとは言いません、出来る範囲でいいのでお願い出来ませんか?」


そう言って頭を下げる。


この要求の中で刀の素材や食材という、町に行けば情報が手に入りそうな要求はハッキリ言えばついでに過ぎず、本命は鍛冶屋や俺達を鍛えてくれそうな人物への紹介だ。

侍という職業上、ミチナガ達は腕の良い鍛冶屋や、実力もあり人を鍛える事が出来そうな人物に心当たりやコネが有りそうなのでこういう要求になった。


俺達の要求を聞いたミチナガは考え込むように腕を組んで目を閉じた。

それから少しして横に座るキキョウを一瞥してから口を開く。


「承知した、確約は出来ませんがなるべくそちらの期待に添うように致しましょう」


「本当ですか!」


金銭を渡して刀を打ってもらうという商売としての形で会う事になる鍛冶屋への紹介はともかく、実力もあり人を鍛える事が出来る人物へ昨日今日会ったばかりの俺達を紹介するというのは難しいと思っていたので、こうもすんなりと引き受けてくれるとは思わなかった。


「自分で頼んでおいてなんですが、ミチナガさん達は俺達の事をよく知らないと思うのですが本当にいいんですか?勿論紹介してくれるなら相手に失礼な事はしないと約束はしますが」


人に人を紹介するというのは紹介した人が責任を持つという事だ。

これで俺達が紹介された相手に不愉快な思いをさせると、それは俺達を紹介したミチナガ達の信用に関わる。

そう思い確認した俺にミチナガはふっと笑顔を見せて応えた。


「そうやって自分達から確認してくる時点で大丈夫だと思うのじゃがな。それに儂は少し前までは人を教える立場にいたので今まで沢山の人を見てきた。これでも人を見る目はあるつもりじゃ。昨日と今日のやり取りでお主達の根っこの部分も少しは見えたと思う、まぁ大丈夫じゃろう」


なんだか急に砕けた喋り方になったな、まぁこちらも肩がこるのでそれは良いのだが、ミチナガが昔は人に教える立場にいたのならミチナガに教えてもらえる事は出来ないのだろうか?

そう尋ねようとしたところで手で遮られた。


「あぁ、儂はもう若くないのでお主らの相手は難しい。それに儂に教わるより儂が紹介する相手から教わる方が遥かに身になるじゃろう。ただし、その相手はかなり厳しいがそれでも良いかの?」


経験が豊富そうなミチナガに教えてもらえたらとも思ったが、本人が自分より為になる人を紹介すると言っているし、それに厳しいのは望むところなので頷く。


「それで、お主らはヒズールにいつまで滞在するつもりなんじゃ?」


「まだハッキリとは決めてませんが、新年はヒズールで迎えるつもりです」


新年をヒズールで迎える事は話し合っていたのでそう伝えると、ミチナガはふむと頷く。


「それならお嬢を連れて行ってほしい」


「なっ!」


ミチナガの口から出た言葉に、隣に座っていたキキョウが驚いた声をあげる。


ミチナガはそれに構わず話を続ける。


「先程、確約は出来んと言ったがこれは儂らからのお詫びという形じゃからな、なるべくならお主らの要望を叶えたい。それにはお嬢を連れて行くのが一番いいはずじゃ」


「でっ、でも私には村を守るという役目が」


話を進めるミチナガにキキョウが抗弁する。

俺達は訳も分からず目の前の二人のやり取りを見ていた。

キキョウを連れて行けという提案に、また感情的になるかもと思い横目でレイナを見たが、レイナも話の展開について行けないのか二人のやり取りをみている。


「お嬢、今回儂はアカネ殿にこの件をお願いするつもりじゃ。なら紹介状だけではなくアカネ殿の娘であるお嬢からの口添えもあった方がより確実という事はわかるであろう」


「それは…そうだけど」


どうやらミチナガが紹介しようとしているのはキキョウの母親のようだ、確かキキョウは母親に憧れて侍になったと言っていたな。

それにしてもミチナガやキキョウのように、アカネというのもなかなか日本的な名前だな。


そんな事を考えているとリズがポカンと口を開けている、どうしたのだろうかと思っていると、リズはハッと気が付いたように真面目な顔になり、レイナの手を握る。

どうやら魔力会話をしているようだ。


眉間に皺を寄せるレイナ、懇願するような顔になるリズ、渋々といった顔で頷くレイナ、そんなやり取りを見ていると、キキョウと話をしているミチナガの語気が強くなったので再びそちらに耳を傾ける。


「お嬢!今回の件はそもそもお嬢が発端であろう!」


ミチナガが語気を強め、責めるようにキキョウに言うのを聞いて少し違和感を感じる。

昨日はキキョウの事をとても心配していたミチナガが、キキョウ一人に責任を被せるような言い方をするのが気になったのだ。


「今回の件はお嬢の未熟さが一番の原因じゃ。ならお嬢は出来る限りの事をするというのが責任を取るという事じゃ。それにはお嬢がトーマ殿達について行き、更にトーマ殿達の世話をするのが一番良いという事がわからんのか!」


ミチナガに強く言われ、俯いてしまうキキョウ、そこに、レイナが声を掛ける。


「キキョウさん、詳しい理由はわからないんですけど私達の要望を叶えるにはキキョウさんが同行するのが一番良いんですよね?ならどうか私達と一緒に行ってもらえませんか?」


立ち上がり、キキョウに向かって頭を下げるレイナ。


昨日はあれほど感情的になったレイナがキキョウに同行してほしいと頭を下げた事で、言われたキキョウは勿論、ミチナガ以外のメンバーも驚いている、俺も驚いた。


言われたキキョウは口を開いて何かを言おうとしては再び口を閉じるといった事を繰り返していたが、最後には頷いた。


「ではそういう事でよろしくお願い申す」


キキョウが頷いて直ぐにミチナガが口を開く、これで話し合いは纏まったようだ。


その後、もう少し詳しく話を詰めて、俺達に同行するのはキキョウとケジローという事になった。

話が決まった事でキキョウとケジローの二人は村を出る準備をする為に滞在している家に戻った。

その間に村長は村から出せる食材の調達に行き、宿の店員は昼食を作る事になった、約束通りレイナとセオも調理の仕方を習う為に厨房について行く。


そうして全ての話が纏まり、漸く落ち着いた所でミチナガが俺達に向かって頭を下げた。


「トーマ殿、今回の件はトーマ殿達を利用する形になって申し訳ない」


ミチナガがそう言った事で、先程のミチナガに対する違和感の理由がわかった。

ミチナガがあれほど強くキキョウに言ったのは、ミチナガ達が何を言っても休みを取らないキキョウを休ませようと、或いは一度母親の元に帰そうと考えて俺達に同行させる事にしたのだろう。

俺がそう尋ねるとミチナガが頷く。


「勿論トーマ殿達の要望に応える為にはお嬢を連れて行く事が一番適しているというのは嘘では無いが、儂らが何を言っても聞かないお嬢には今回のように責任を負わせる事が一番じゃと思うてな、それでトーマ殿達の要望を利用した事は確かだ」


そう言って目を伏せるミチナガに笑顔で応える。


「キキョウさんが同行する事についてはレイナにも問題は無いようなので構いませんよ」


そう言うとミチナガも笑顔を見せる。


「そうじゃな、お嬢に対して少なからず不満を持つレイナ殿の言葉も助かった。重ねてお礼を言いたい」


レイナの言葉が最後の一押しになった所もあるし、あれは確かに驚いたな。

おそらく二人で魔力会話をしていた時にリズが何かを言ったんだと思うけれど。

そう思いリズに目を向けると良い笑顔を返された、とても嬉しそうだ。


リズがレイナに何を言ったのかは後で聞く事にして、今は昼食の準備が整うまでミチナガから鍛冶屋の情報を聞いたり、食にはうるさいというミョーオからヒズールおススメの食材や珍しい食材の情報を聞いたりして過ごした。



ようやく次話でヤムシロを出発です。

ヒズールでの案内人と、鍛冶屋や主人公達を鍛えてくれる人物との繋ぎをするだけの話にここまでかかるとは…。


ブクマ200件、評価ポイント500、ユニーク15000を越えました、読者の皆さんに感謝を!

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