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ヤムシロの宿


「トーマ…」


体中から血を流し、苦しそうに俺の名前を呼びながらゆっくりと倒れていくリズの姿が暗闇の中に浮かぶ。


「リズ!」


俺はそこでハッと目を覚ました、どうやらどこかの部屋で眠っていたようだ。


「嫌な夢を見たな」


額に滲んだ汗を拭い部屋を見回す、目に入って来たのはまず自分の眠るベッド、そして左側には壁があり、右側に目を向けるともう一つのベッドがあった、そのベッドの向こう側には灯りの魔道具が置かれた机と椅子があり、その側にドアがあるだけという狭くて殺風景な部屋だ。


「あれ?ここは?なんで俺は寝てるんだ?」


何故自分がベッドで寝ているのか、寝起きで動きの鈍い頭を使い記憶を辿っていく、そして徐々に思い出していく。


「リズ!」


苦しそうな顔で倒れるリズの顔、そしてリズと俺を斬り伏せた小柄な女性の姿を思い出しベッドから跳ね起きると部屋の外に飛び出す。


「兄ちゃん起きたのか!」


部屋の外に出るとトレイを持ったテオが歩いてきた、トレイにはパンとサラダ、それと大きめの器に入った味噌汁が乗っていた。


「部屋で食べようと思って夕飯を貰ってきたんだ、兄ちゃんも食べるか?」


味噌汁の匂いが空腹を刺激してくるが、ご飯よりも今どういう状況なのかを知りたい。


「テオ!リズ達はどこにいる!」


「にっ、兄ちゃんちょっと落ち着いて!そんな大きな声を出したら宿に迷惑だぞ、俺達以外には客はいないみたいだけど静かにしようぜ」


詰め寄る俺の様子に少し慌てるテオ、どうやらここは宿のようだ。


「それで姉ちゃん達なんだけど、二人はまだそこの部屋で寝てるんじゃないかな、二人の事はセオが見てるから安心していいぞ」


つい声を荒げてしまった俺を諭し、俺が出てきた部屋の隣に視線を送るテオ、その口調にはあまり焦りは感じられず、いつも通りなので本当にリズ達は大丈夫なのだろう、それを聞いて焦っていた俺の心も少し落ち着いた。


テオの視線を追ってリズ達が寝ているという部屋に目を向ける、女の子が寝ている部屋に入るのは少し躊躇われるので、気絶した時に途切れていた空間把握を展開させる。


すると俺が寝ていた部屋の隣、今視線を向けている部屋の中に三人の魔力の反応があった、それでようやく安心した俺は、倒れてからの事をテオに尋ねる。


「テオ、俺が倒れてから何があったのか教えて欲しい」


「わかった、じゃあ…」


話を聞かせて欲しいと言われトレイに視線を落とすテオ。


「あ、冷めちゃうから話はテオがご飯を食べてからでいいよ。取り敢えず部屋に入ろうか、俺が寝てた部屋は使っていいんだよな?」


「部屋は村を助けたお礼にタダで泊めてもらったから自由に使って大丈夫だぞ、兄ちゃんはご飯食べないのか?ご飯もタダだぞ」


「俺はテオから話を聞いた後で食べるよ」


テオを促し部屋に戻り、テオがご飯を食べるのを待つ、その間、俺はあの時の事を思い浮かべる。


あの時はリズが斬られたと思い頭が真っ白になったが、冷静になってみればリズの体から血は出ていなかった、俺も倒された時は斬られたというより打たれたという感じだった。


日が落ちて暗くなっていた上に相手の動きが速すぎてハッキリとは見えなかったが相手は刀を使っていたはずだ、それなのに俺達が無事だったのはおそらく峰打ちだったのだろうな、小柄な女性は最初から俺達を殺す気は無かったという事だ。


気持ちを落ち着けつつ、あの時の事を思い出していると、机で夕飯を食べていたテオがご馳走さまと声をあげる、ゆっくりでいいと言ったのだがテオは俺に話をするために急いで食べてくれたようだ、夕飯を食べ終えたテオがあの時の事を教えてくれた。


あの後、俺とリズが倒れてから、テオとセオ、レイナは直ぐに俺達の下に駆け寄って俺達を倒した相手と戦おうとしたらしい、走ってきたテオ達を見て俺とリズを倒した女性は少し戸惑ったようだが、三人が戦う姿勢を見せた事で、テオ達に対して少し戸惑った様子を見せていた女性も武器を構え、お互いに張り詰めた雰囲気になったようだ。


そしてテオとセオが身を屈め飛び込もうとし、レイナが呪文を唱えようとした所で、その様子を見て固まっていた村の人達が弾けるように飛び出し大声で待ったをかけたようだ。


村の人達は焦った様子で大声を出しながら、俺達を倒した小柄な女性とテオ達の間に割って入り、それからお互いの事を説明したようだ。


村人から俺とリズは盗賊を倒してくれたと説明を受けた小柄な女性は目に見えて狼狽え、慌ててテオ達に謝罪をしたようだ、そして俺とリズが目覚めたら再び謝罪に来るという事で一度話を終え、女性の方は遅れて来た仲間と共に倒れている盗賊の処理に、レイナ達は村人に感謝されながら宿に案内されたようだ。


「兄ちゃん達が倒されてからレイナ姉ちゃんは凄く怒ってるし、俺とセオも焦っててどうしていいかわからず大変だったんだ。だけど女の人と村の人達が必死で謝ってくれて何とかレイナ姉ちゃんも落ち着いて、それから倒した盗賊をそのままにしておけないって事で、盗賊達の後始末は兄ちゃんを倒した女の人とその仲間の人達に任せて俺達は村の人と一緒に兄ちゃん達を宿に運んだんだ」


「そうか、俺達を倒した女性の事を村の人達は知ってたなら、その女性はヒズールの人って事?」


「うん、ヒズールの国に仕える侍って人達だってさ。あちこちの村を廻って魔物や盗賊を退治するのが仕事だって言ってたぞ。それで今日ヤムシロに来たら村が盗賊に襲われてるのを見て、兄ちゃん達の事も盗賊の仲間だと思ったって言ってた」


なるほど、俺達も盗賊と思われたのか、それでも俺達を殺さなかったのは他に仲間がいないか情報を得るつもりだったのかな。


それにしても、あの女の人は強かったな。もしあの女の人が俺達を殺すつもりだったなら俺達は呆気なく死んでいたはずだ、俺とリズが生きているのは運が良かっただけだ。これでも強くなったつもりでいたし、油断もしない様にと思っているけど、圧倒的な強さの前にはどうしようもないな、悔しいな…。


「兄ちゃん、大丈夫か?怖い顔になってるぞ」


おっと、あまりにも悔しくて顔に出てしまったみたいだ。


「ごめん、簡単に倒されたのが凄く悔しくて。あんなんじゃ皆を守れないと思ってさ」


「そんな事無いぞ、あの女の人が言ってたんだけどさ、兄ちゃん達は思ったよりも強くてあまり手加減する事が出来なかったんだってさ。あの女の人はヒズールの侍の中で一番強くて有名な人だって村の人も言ってたし、そんな相手に強かったって言われたんだからやっぱり兄ちゃん達は強いんだよ」


相手は侍の中で一番強い人、か。それでも、結果は何も出来ずに倒された、まだまだ強くならないと皆とゆっくり安全に世界を見て回る事も出来ないな。


もっと、もっともっと強くならないとな。


「兄ちゃん?」


あぁ、また考え込んでしまった。


「ごめんごめん、話は大体わかった。それで、さっきリズとレイナは寝ててセオが二人を見てるって言ってたけどレイナはなんで寝てるんだ?レイナは戦ってないんだよな?」


「レイナ姉ちゃんは、兄ちゃんとリズ姉ちゃんを治したから魔力が無くなったみたいなんだ、兄ちゃん達は肋骨が何本か折れてたみたいだぞ。あの女の人が言ってたけど二人とも強くて手加減出来なかったからかなり本気で打ったみたいで、骨が折れてるはずだって、それを聞いてレイナ姉ちゃんがまた怒ってさ、大変だったよ」


確かに、あの時は息が出来なくなるほどの衝撃だった、肋骨が折れてたのか、それでも完治してるって事はレイナが詠唱を使って治してくれたんだろうな。


「そうか、直ぐに起き上がれてどこも痛くなかったのはレイナのおかげか。後でレイナにお礼を言わないと…、おっ?テオ、リズが気付いたみたいだ」


テオと話をしていると隣の部屋でリズの魔力が動いた。


「多分リズにはセオが話をするはずだから、ご飯はその後だな」


リズが気が付いたようなので、もう少し時間を置いてからリズ達の部屋に行く事にする、その後で一緒に夕飯を食べに行く事にしよう、リズもお腹が空いているだろうしな。そう思いテオと話をしていると今度はレイナの魔力にも変化が出る。


「テオ、レイナも目覚めたみたいだ」


レイナも目を覚ました事を伝え、それから十五分ほど待ってからリズ達の部屋に行く。


部屋のドアをノックすると、は~い、とリズが元気に返事をしてくれた、リズも大丈夫そうだな。


「トーマだけど」


部屋に向かって声をかけるとリズが部屋のドアを開けてくれた、そしてお互いに顔を見合わせて苦笑いをする。


「あ~、リズは体の方は大丈夫?」


「うん、レイナが治してくれたみたいだしね。トーマはテオから話を聞いたの?」


「大体の話は聞いたよ。これから夕飯を食べに行こうと思うけどリズ達はどうする?」


「私達もお腹が空いたねって話をしてたんだ。じゃあ皆で行こうか」


そして五人連れ立って食堂に向かう、この宿は他の町にある宿屋の様に大きくは無いようで部屋も一階に四部屋だけ、食堂も五人掛けのテーブルが二つだけ置かれているこじんまりとしたスペースだった。


「あっ、お客さん目を覚ましたんですね!体の方は大丈夫ですか?夕飯はもう出来ているので食べられるなら直ぐに出せますよ」


食堂に入ると三十代くらいの、ひょろっとした男性が声を掛けてきた、おそらく宿の店員だろう。


「少し前に目を覚ましました、心配してくれて有り難うございます。体の方は大丈夫ですよ。食事は…、五人分お願いします」


食事をお願いする時にテオを見るとテオが頷いたので五人分の食事をお願いする。


「わかりました、じゃあ座って待ってて下さいね」


店員は笑顔を見せるとテオから食器を受け取り厨房の方に行く、俺達は料理が来るまで少し話をした。



今話でもう少し進む予定だったんですが一応四千文字は書けたのと、投稿があまりにも遅れがちなのであまり進んで無いけど投稿しました、次はなるべく早く投稿出来る様にします(汗)

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