和洋折衷
更新が遅くてすいません。
「レイナ、左から獣形が五匹だ!テオとセオはレイナのフォローを任せる」
リズと共に目の前の白いオーガを相手にしながらレイナ達に指示を出す。
「ヴォォォ」
オーガが唸り声をあげると魔力が高まる。
『拍車』
飛んできた氷の塊を飛び上がって躱し、そのまま雪原に足を取られないように宙で右足、左足と跳ねながらオーガに近付き、風の魔力を纏った右腕を一気に振り下ろす。
「グァッ」
頭を割られたオーガが雪を朱に染めながら倒れ伏す、リズも風の矢に怯む事無く接近してきたオーガの首を刀の一閃で撥ね飛ばしていた、それを見て直ぐにレイナ達の所に目を向ける。
『雷撃』
襲ってくる狐形の魔物を雷で倒し、近付いてくる個体はレイナの前に立つテオとセオが魔物以上の俊敏な動きで倒していた。
「皆、取り合えず反応は無くなったよ、さっさと素材を剥ぎ取って馬車に乗り込もう」
俺とリズは白いオーガを引き擦りながら馬車に戻る。
「これがオーガなんてね、トーマの鑑定がなければまるで違う魔物にしか見えないね」
リズが素材を剥ぎ取りながら言うが無理もない、俺達が倒したのは白く長い毛に覆われたオーガの亜種だ、俺も鑑定にオーガと出なければ何かの番組で見た雪男やビッグフットを思わせる様な見た目だ。
「この魔物もです、白いヴィクスンなんて」
「レイナ姉ちゃん達はスノウヴィクスンを見るのは初めてか?獣人界では狐は白が当たり前だぞ。オーガは見た事無いけど他の魔物も殆んど白だったからな、人間界に最初来た時は色んな魔物が珍しかったんだ」
テオの言葉にセオも頷く、獣人界は一年中雪が耐えない場所もあるらしいので魔物も環境に適応しているのだろう、そしてこの時期のヒズールも獣人界の様に雪に適応した魔物が多いようだ。
ラザを出て二ヶ月、今はヒズールの領土内を進んでいる、ヒズールは今が一番寒い時期らしく辺り一面は雪景色だ、テオとセオは雪に慣れている様だし、俺も日本では雪の多い土地に住んでいたのである程度は慣れているが、雪が降らない地域で育ったリズとレイナは辛そうだ。
素材を剥ぎ取り後処理をすると逃げる様に馬車に戻り直ぐに外套を羽織るリズ、俺は魔素操作を使い一メートル以内の魔素を操り、温かい空気に変えてそれを馬車の中に循環させる。
「はぁ〜、生き返る。ありがとうトーマ、ヒズールがこんなに寒いとは思わなかったよ」
少し空気を循環させると馬車の中は直ぐに暖かくなる、魔素操作で空気を暖めるのは生活魔法程度の魔力しか使わない、これが無いと刺すような寒さの中を旅しないといけないと思うと自分の能力の使い勝手の良さを改めて思い知るな。
「やっぱりトーマの側が一番だね」
十分に馬車内の空気は暖まったのだが、馬車内でも俺の近くが最も暖かいのでリズが俺の腕を抱え込む様に組んで来る。
ヒズールの領土内に入って雪がちらつき初めてからずっとこの調子だ。
「ほらほら、そろそろいいでしょ」
俺はリズを引き剥がす、寒いから暖を取りたいのはわかるけどこうも毎日密着されたら気が変になりそうだ、幸いレイナ達がいるので理性も働くけど毎日密着されるのは辛い、寒いと人肌恋しくなる、なんて聞いた事があったけどなるほど、人の温もりというものを一度知ってしまえば確かに離れかたいものがある、リズは寝る時は毎日セオを抱き枕にしている、俺もいつかは…。
「トーマ?どうしたの?御者しないの?」
おっと、折角理性を振り絞って引き剥がしたのに妄想してしまった。
「ごめんごめん、じゃあレイナお願い」
もう一度馬車の中の空気を念入りに暖め、それから厚手の外套を羽織りレイナと一緒に御者台に移る。
御者台で外套を広げ、レイナを脇に抱える様な感じで包み込む、これもまた気が変になりそうだ、ニィルからの早くしろよとでも言うような目線が有り難い。
「よし、行こうか」
外套の中の空気を暖め、ピトっとくっついてくるレイナの頭を撫でてから馬車を走らせる。
『塵風』
レイナが呪文を唱えて街道に積もった雪を吹き飛ばす、そうしてようやく馬車を走らせる。
雪の中を旅するというのがこれほど大変だとは思いもしなかった、ステルビア最後の村で準備を整えた時に、この季節にヒズールに行く奴はいないと聞かされていたが想像以上だ、一時間毎に馬車内の空気を暖めないといけないし、レイナの魔力も無尽蔵ではない、何度も休憩を挟み、時おり襲ってくる魔物を倒しながらの旅は遅々として進まないのだ。
そろそろ日も暮れてきたし夜営の準備をしようか、そうレイナに声を掛けようとした所で街道の先に建築物が見えた。
「あ、あれ!あれが村の人が言ってた関所じゃないですか?」
レイナに声をかけて目を凝らす、高さ二メートル程の壁が横に広がり、そして見張りの為か物見矢倉の様な建物もある、馬車を走らせて壁に近づいていく、街道の先には篝火が焚かれ、木で出来た門を照らしていた、門の中には編み笠を被り、外套を羽織った、恐らく門番であろう二人が槍を手に持ち立っていて、顔が見える距離まで近づくと毅然とした声で制止する様に伝えてきた。
「そこの馬車、一旦停止せよ!ここから先はヒズールになる、ヒズールに用があるのであれば先ずは身分を証明して欲しい、身分を証明出来る物はあるか!あるのであれば代表者一人、馬車から降りてゆっくりと歩いて来てもらおう」
門番の指示に従い馬車を止め、レイナには荷台に移ってもらい、一人で門に歩いていく。
「すいません、ステルビアから来た金下級冒険者のトーマと言います。ヒズールには観光で訪れました」
大声で返事をしながら冒険者カードを掲げる、俺の返事を聞いて門番の二人は顔を見合わせる。
「この様な時期に観光だと?まぁよい、では冒険者カードを見せよ」
そう言われたので門番にカードを手渡す、門番は俺のカードをジックリと確認した後で頷く。
「確かに確認した。それにしてもこの様な時期に観光とはな、冒険者には変わり者が多いとは知っていたが私が門番になってからこの時期に観光に来た客は初めてだぞ」
門番の人は観光と聞いて呆れ顔だ、ステルビアの村で言われたようにこの時期にヒズールに行く人は滅多にいないようだ。
それにしても編み笠を被り、上は外套、下は袴と脛布に足袋という時代劇で見た旅人風の格好で、顔はステルビアの人とあまり変わらないという和洋折衷な所に違和感を感じるな。
「では馬車の荷台を改めたい」
「はい、ではお願いします」
俺は門番の二人と馬車に戻る、門の奥から新たに二人の門番が出てきて門の中央に立つ、物見矢倉の様な建物にも四人の反応があるのでかなり警戒しているようだ、リズ達に声をかけてカードと、馬車の荷を見てもらう。
「倒した魔物の素材を見ると金下級に相応しい実力者のようだが、それにしてもお主らは発熱の魔道具も持たずに女、子供だけでここまで来たのか?」
馬車の中を確認した門番が再び呆れ顔になる。
「発熱の魔道具なんて物があるのを知らなくて、それはヒズールでも買えますか?」
「あぁ、この時期にヒズールで馬車を走らせるのであれば必需品だ。まぁそれでも余程の事が無い限り馬車は出さぬのだが…、それで何か火急の用かと思えばまさか観光とはな」
再度呆れ顔の門番に聞くと、ヒズールは立地、文化の違い、生息する魔物の強さなどの要因で訪れる人は元々少なく、更に冬になると旅人などは全く来なくなる、なので俺達が来た時も最初は他所の国の使者かと思ったようだ、だか近くで見てみるとそれほど立派な馬車ではなく、しかも御者はまだ成人前の子供にしか見えない男女なので、もしかして魔族か妖怪かと思ったようだ。
というかヒズールには妖怪っているのか?
「ヒズールには人に化ける様な妖怪がいるんですか?」
「人に化ける様な力を持った妖怪は確認されておらぬが、確認されておらぬというだけで実際におらぬとも言えぬ。それに其れほどお主らが非常識だと言うことだ」
門番の言う妖怪とは魔物の事のようだ、おそらくヒズールを作った異邦人の中では魔物は妖怪というイメージで、それがそのままヒズールでは残っているのだろう。
それにしても門構えや篝火、物見矢倉に門番の服装、門番の持つ槍の装飾もどこか和風だし本当に文化が違うんだな、そして、編み笠の材料にはイグサ等の他に稲藁を使う事もあったはずだ、という事はもしかしたら米にも期待出来るかもしれない、更に味噌や醤油も手に入るかも、鰹節もあるだろうか?昆布があるのなら、昆布があるのならおでんが…。
「おい、おい!突然呆けてどうしのだ?」
おっと、おでんに気が取られてぼけっとしてしまった、取り合えず中に入れてもらおう。
「すいません、長旅で少し疲れてて。今日は宿の方で休みたいのですが門の中に宿はありますか?」
「あぁ、門の中はちょっとした村になっておる。そこで発熱の魔道具も手に入るはずだ」
門番の一人が門の方を顎でしゃくり、それから新しく門に出てきた門番、それと物見矢倉の方に手をふる。
「まぁ身分も確かなようだし怪しい物も無いので問題は無いな。では入国するのであれば金貨五十枚だ」
「金貨五十枚!」
「うむ、ヒズールに入国するのであれば一人金貨十枚だ。お主らは五人なので合わせて五十枚だな」
関所を通るだけで一人金貨十枚はかなり高いな、だけどここまで来て引き返す訳にもいかないので金貨五十枚を払う、すると門番は腰の革袋から絵馬の様な板を五枚取り出して渡してきた。
「これは?」
「それはヒズール内での身分証になるから無くさない様にな。それと、それを出国する時にここで返せば一人金貨五枚が返ってくるぞ」
なるほど、実質的に入国料は一人金貨五枚ということか、ステルビアからジーヴルに行った時は国境も入国料も無かったから高く感じるけどこれが普通なのかもな。
「それと、ここではまだ金貨も使えるがここから先は貨幣が変わるからな、ここでは手数料がかからないので先に両替は済ませていた方が良いぞ」
「ありがとうございます」
門番に礼を言って門を通る、門をくぐった先は街道が続いていて、その側には木造で三角屋根の建物が建ち並んでいた、思わず東海道や中仙道といった宿場町を思い浮かべてしまう。
「トーマ、早く早く」
リズに急かされて先ずは門番に教えられた様に両替屋に行く、両替屋の人は明るい金髪に茶色い瞳、彫りの深い顔立ちで、服装もステルビアの人達と大差ない感じだ、ヒズールは色々と混ざっていてなんだか自分の感覚がおかしくなりそうだ。
取り合えず金貨百枚を出す、少し多いかとも思ったが問題無く両替してくれた、金銭五十枚、銀銭五百枚を受け取る、他に銅銭と鉄銭かあるようだがそれは買い物等をした時にお釣りとして受けとればいいだろう、お金も準備出来たので次は宿屋に行く。
宿に入るとまず土間があり、敷居があって畳の上に両膝を立てたお店の人と話をする、なんてイメージをしていたけど中は普通にカウンターがあり、その奥では丸い坪の様な物をテーブルの上に乗せ、その側で椅子に座って編み物をしていた、七十歳にはなろうかというお婆さんが出迎えてくれた、そのお婆さんも金髪碧眼で西洋風の顔立ちだ、テーブルの上にある坪の様な物が発熱の魔道具なのか宿の中は暖かかった。
「あらあら、こんな時期に国外からのお客様なんて珍しいねぇ」
「国外からってわかるものなんですか?」
門番の人は個性的な格好だったけど両替屋の人は麻布のシャツ、お婆さんもステルビアで見る様な厚手のチュニックを着ている、俺達も革鎧以外は似たような格好なので何故国外からの客だとわかったのか不思議に思い聞いてみる。
「そりゃああんたの腰に下げた旅符を見たら分かるさね。何か用事があってヒズールを出るのか、それとも今日ヒズールに来たのかわからないけどその口振りからすると今日この国に来たのかい?」
お婆さんに頷き、観光に来た事を話すと門番と同じ様な反応を返された。
「こんな季節にヒズールに来るなんて命知らずだねぇ、外は雪鬼や雪狐が出ただろうに」
雪鬼は白いオーガ、雪狐はスノウフックスの事だろう、この国では魔物を妖怪と言ったりと呼び方も外とは少し違うようだな。
「はい、でも俺達も腕に自信があるので」
俺が答えるとお婆さんは少し目を見開くが直ぐに顔をくしゃっとさせて優しい笑顔を見せる。
「おやおや、そうかい」
それから話好きなお婆さんと少し世間話をしながらヒズールの話を聞き、お婆さんが満足した所で部屋を借りる、部屋は三人部屋で一泊一部屋借りるのに銀銭三枚、二部屋分の料金と一緒に、馬車も銀銭一枚で預かってくれるので銀銭七枚を払い、鍵を受け取ってから二階に上がり、一旦俺達の部屋に集まる。
「明日は少し店を周って食材を買い込んでから出ようか、レイナ達には馴染みの無い調味料が多いと思うけど俺が知ってるのと同じ食材なら俺が教えられるからさ」
そう、お婆さんから聞いた話だとヒズールには味噌や醤油、昆布があるらしいのだ、それにヒズールは海に面しているので海産物も豊富にあるらしい、特に今の時期は蟹が旬の時期らしく、ここには無いがヒズール国内に行けば刺身もあるようだ。
「私達には全然わからない話でしたけどトーマさんとお婆さんは盛り上がってましたね、生で魚を食べる話もしていましたが大丈夫なんですか?」
「ああごめん、あまりにも懐かしくてつい興奮しちゃってたね。生で魚を食べるのは…どうだろ?ヒズールの人は普通に食べてるみたいだし大丈夫じゃないかな?」
懐かしい味噌や醤油という単語に興奮して皆を置いてけぼりにしてしまったけど、生で魚を食べるなんて聞いたら普通はビックリするか、まぁヒズールの人は当たり前のように食べているらしいので大丈夫だろう。
あまりの懐かしさに醤油や味噌、昆布を使った料理の事を力説、特に昆布出汁を使ったおでんの事を力説しているとテオが俺の肩を叩く。
「なぁなぁ兄ちゃん、ニィルはそのままでいいのか?」
「あっ、そうだ忘れてた」
宿はお婆さん一人で切り盛りしているので馬車は自分達で裏に回してくれと言われたのに忘れてた、リズ達に先に夕飯を食べててと伝えて慌てて外に出る。
「ブルルッ!」
雪のちらつく中、店の前に放置され不機嫌そうなニィルに謝りながら店の裏手に馬車を回し、ニィルを馬車から外して厩舎に繋ぐ。
「ごめんなニィル」
不機嫌そうなニィルを撫で、厩舎の隅に積み上げられた枯れ草をニィルが寝やすい様に敷き詰める、そしてレイナが寒くて可哀想だからと四枚の布を繋げて作ったニィル専用の毛布を被せるとようやく期限を直してくれた。
ニィルは最初に比べてどんどん感情豊かになっている、馬は賢いって言うけど本当だよな。
満足したニィルの前に、ニィル専用の大きめの鍋を置き、野菜を沢山入れてからもう一度撫でて宿に戻る。
宿に戻るとカウンターの奥、俺達が宿に来た時にお婆さんが座っていたテーブルでリズ達がお婆さんと食事をしていたので混ぜてもらう、料理は普通にパンとシチューだ、この宿は旅人がよく使うので他所の国と同じ食事を出しているらしい、少し残念だが和食はもっと奥、ヒズールの町に入った時に楽しもう。
その後も食事をしながら話好きなお婆さんからヒズールの事を聞かせてもらった。
冒頭でも書きましたが更新が遅くなりすいません、ヒズールを書く事でどこまで和のテイストを出そうか悩んでしまい何度も書き直してしまいました、勢いだけで書いていた弊害が出たようです…。




