第四作戦室の戦争
第一話 「戦争」
「争いで必ず生むのは利益と不利益だ。誰かが得した裏に必ず不利益を被る人間がいる。争いに勝つとは利益を得るという事だ。」
ツバサ・アライが第一作戦室から要請された依頼兼作戦書を一瞥して一言。
「この作戦…"裏"が有りますよね?」
依頼は極単純で、友好国であるソクレタスがエストラーダによる攻撃を受けた為、報復措置としてエストラーダ南部最大のの石油プラントを襲撃しろというものだ。作戦としては何でも無いものだが強力な陸上戦力を持つ第一作戦室が特殊部隊と名だけでお払い箱の第四作戦室に依頼するわけがないとなると…。
「となると、敵勢力に強力な"アレ"がいるということだな」
第四作戦室長のマサキ・シライはツバサの言いたい事を代弁した。
「多分ですが…作戦内容も第一作戦室の面子で事が足りる内容です。それをこちらに回してくるとなると自らの兵力温存の為の駒にする為にでしょうね」
「ですがこの作戦、何もなければ簡単な作戦です。貴方達の腕なら大丈夫では?」
副室長のコーデリア・ライムは第一作戦室絡みとなると途端に熱くなってしまう。ツバサはそんなコーデリアを意に介さず話を続けた。
「とりあえず、この石油プラントの状態を調べてから作戦実行へ移しましょう。その為にも偵察部隊の派遣を進言します。」
「そうですねツバサ中尉。アーノルド参謀長はどう思いますか?」
呼びかけに応じ、作戦室のソファで寝ていたアーノルド・マテリアル参謀長が体を起こした。
「うーん。やはり早めに偵察部隊を送った方が良いかもしれませんね。私もこの作戦はきな臭いと思ってますよ。しかも第一から現場の詳しい情報を送って来ない所を見ても鋼鉄機兵が警護に掛かっている事は明確です。今は敵戦力を早期に見極めて可能か不可能かを決めるしか無いです。」
「それでも私はこの作戦に大賛成です!この作戦を成功させれば第一作戦室の鼻もへし折れますし!大丈夫なら早く用意しましょう!」
とコーデリアは言うと、少し別の仕事があるのでとスタスタと作戦室から出て行った。
「まぁ、いつも通り第一作戦室絡みのコーデリア君だね。あっツバサ君とりあえず腰をかけてよ。アーノルド君は寝てないで。」
マサキは仕事モードから打って変わりプライベートの呼び方へと変わる。
ツバサとアーノルドは作戦室のソファに座る。
マサキは三人分のお茶を入れて二人の前に置いた。
「それで、マサキさんはこの作戦をどうお考えで?」
アーノルドは欠伸をしながら聞く。
「多分この作戦は第一作戦室の捨て駒みたいな感じだろうね。この作戦以降エストラーダとは戦争関係になる。そうなったら兵力を温存しておきたい。なら仕事の無いこちらに回せとなるのは何となく悲しいけどわかる。」
マサキは入れたお茶を啜る。
「多分引き受けなければ…今後の仕事は補給部隊の護衛程度になるだろう。流石に四作戦室の建前もある以上第四作戦室を潰すことはできないが…ツバサ君やニライ君みたいなエリート候補生の芽を摘み取る事になる。私みたいにはなって欲しくは無いからね。」
マサキは顔を少し下に向け茶に映る自分の顔を見ると、それを一気に飲み干した。
「大丈夫ですよマサキさん、この作戦何としても成功させますから。なっツバサ。」
「ええ、その為の私達「GPCT」です。必ず成功させますよ。」
マサキの思いを汲み取り、アーノルドとツバサは共に成功を誓った。
「分かった。ただ危険性がある場合は引き受けなくて良い。その時はこっちで何とかする。まずは情報収集だ。」
マサキは立ち上がり偵察部隊にコールを掛ける。作戦室に集まった偵察部隊にマサキはプラントでの偵察と情報収集を命じる。久々の仕事に偵察部隊長は目を光らせ準備に取り掛かる。他の隊員も皆久々の仕事に性を出していた。
偵察部隊が準備を整えている間。アーノルドも参謀長として図面演習の準備に取り掛かると作戦室を後にした。
ツバサも「GPCT」の面子に今後の作戦についての話をしようと作戦室を出た。
「戦争反対を訴えていた我等第四作戦室が真っ先に戦争しに行くとは皮肉な話だな」。
出る間際、マサキが窓に向かって呟くのをツバサは聞き逃さなかった。
ここで補足的な説明を入れよう。先の大戦により国家間での統廃合と企業の国政介入を経て、世界は四大国家とそれに従う小国という図式へとなった。
ツバサ達が属するアトリシアは巨大企業を多く取り込んで大きくなった国家だ。その経済力や生産力は四国随一だろう。
アトリシアと友好関係を結ぶソクレタス
は元々自治組織であったが技術力を武器にして発展していった。
企業による効率的な労働環境と支配力によって潤沢な資金を持つアクトセノウス。
そしてツバサ達が戦争を仕掛ける、一人の支配者による独裁的政治を行うエストラーダ。
この四国は互いに牽制しながらも平和という均衡を保ってきた。しかし、ついにエストラーダのソクレタス侵攻をキッカケにその均衡は脆くも崩れ去った。
そしてそのエストラーダに友好国の防衛という大義名分を下に戦争をする。決して我々もやってる事は変わらないとツバサは思った。作戦室を出てツバサが隊長を務める「GPCT」の部隊室までこの戦争が何時まで続くか、その先になにがあるか。それしか考えなかった。
「GPCT」General-purpose combat troops
汎用的かつ、強力な戦闘力を持つ部隊をコンセプトに作り出された第四作戦室の切り札的存在だ。
ツバサは部隊室のドアノブを回す。
「おっ、若隊長お疲れ!」
「お疲れ様です、隊長」
と部隊室でくつろいでいたベテランのアルフレッド・リージェンスと最年少のニライ・カナタがツバサを労った。
「お疲れ様っす」。
その声を聞いてトム・シュリックも声をかけた。
「あれ、アスカとマーシーさんは?」
「はいはい、ここにいますよ」。
アスカ・トライミレーネは隣の作業室で武器の調整を行っていた。
「全くうるせんだよ」。
その作業室のソファで酒を飲むマーシー・ベネットはいつものように不機嫌そうな回答をした。
「すみませんマーシーさん。ですが仕事です」。
「ああ?このクソ部隊にか?」
カラカラと笑いながら酒を飲む。
「マーシー、その辺にしとけ」。
見かねたアルフレッドが酒を奪う。
それに対してマーシーは苛立ちの表情をした。
ツバサは汚いテーブルを片付け会議を行う準備を整えた。
「それで、作戦って言うのはどうなんっす?」。
椅子に座ったトムが本題へ戻す。
「ああそれが…」
ツバサは作戦室での話をする。
「つまり、相手兵力に鋼鉄機兵がいるのですね…」
ニライが少し悩んだような顔を見せる。彼の優れた頭脳が少ない情報から勝機を見出そうとしている。
「いるとしたらX型よね、隊長」
アスカは兵装関係の部品の手入れをしながら聞く。
鋼鉄機兵。4mクラス強化外骨格で、その破壊力は核の次に出ると言われる。現在四国全てで配備されており犯罪組織の壊滅や、災害時の救助などにも使われる。XYZとそれぞれ型がありX型が陸上特化、Y型が水上空中特化、Z型が…。
「さてどうしたものかねぇ…」
アルフレッドが少し伸びた顎髭に手を添える。
「どうしたもこうしたもねーよそんなもん。破壊作戦だ、銃火器乱射すら済む話だろ?」
マーシーは不満げに言った。
「で…でも敵に伏兵がいたら恐ろしいっす…」
トムは伏兵の影に怯えた。
「伏兵なんて倒せば良いだけです。ですが…」
兵装の手入れを終え、部隊室のソファに座るアスカは少し言いづらそうにしている。
「どうした、アスカ?」
「ですが…隊長、この作戦やる意味があるのでしょうか?」
そう、そこだ。ツバサは心の中で思っていた事と一致している。
アスカは続けた。
「確かにエストラーダの侵攻は許されるものではありません。ですが武力で解決するのはどうなんでしょうか?それでは我々もエストラーダの連中と何も変わりませんよ」
一瞬の沈黙。
その沈黙を破ったのは酔っ払いだった。
「そうだな…だがな小娘、ここは戦争屋の集まりだ。銃持って敵を撃ち殺す事だけを考え、国の為と称して戦いを正当化する。そういう連中にお前の高貴な考えは通じると思うか?」
「そ…それは…ですが!」
マーシーの反論に面食らったアスカは言葉が思いつかなかった。
「良いか、戦いでは必ず死ぬ者と生きる者ができる。生きる者になりたいのならば…情や感情を捨てることだ。生きる為に闘え…」
マーシーの声が少し上ずっていることにトムは気がついた。
「まぁ、とりあえず情報を待ちましょう。その間に換装と補填を忘れなく」
「そうですね、こちらも援護に性を出します」。
「考えても仕方ないな、マーシーの言う通り破壊作戦だし気軽にやりますか」
「…ふん」
「不安っす…」
「…」
アスカはまだ悩んでいた。こんな戦いに意味などあるのかと。
三日後、偵察部隊の情報を元に図面演習が行われた。情報では敵勢力はX型五機の小隊編成であった。図面演習と話し合いの結果、まず「GPCT」の面々が乗り込むX型五機で敵勢力と接触。その間に航空戦力による爆撃を準備。航空戦力の到着と同時に部隊は作戦地域の離脱を図る。バックアップとして後ろに戦車師団及び歩兵部隊を配置した。これにより敵勢力の半減、施設の無力化は可能という結論が出た。ただし一つ不安要素があった。石油プラントから北西約130Km離れた場所に敵航空部隊の基地が存在することだ。敵の100kmレーダーには反応しないよう注意はしてある。が、敵小隊の連絡で航空部隊が迎撃に来るのはまずい。その為にも迅速な動きが必要であるという事、作戦決行日は警護に甘さが出る明日早朝四時、作戦名はA作戦で全会一致した。
図面演習終了と同時に第四作戦室は慌ただしく動いた。当日の天候を調べたり、燃料の計量などを行いA作戦を成功させる為の準備を行う。準備は夜遅くまで行われた。当然「GPCT」も兵装の点検。どんな系統の武器を使うかなどのセッティングを行う。
そんな中、アスカは一人屋上のベンチに座っていた。
この前のマーシーのセリフがまだ離れていなかった。
犯罪組織とは幾度も戦闘した。決して自分の行いが全て正しいとは思っていない。だけど、犯罪組織との戦闘は善良な市民を守る事に繋がり意味のある行為と思えた。
しかし、戦争は違う。どちらかが正しい訳じゃない。相手を殺し、相手にそちらが正しいと言わせるまでが戦争だ。戦争に正しさなんてない。なら…なら…。
キィ…。
屋上のドアが開く。
アスカはドアが開く音を聞き、そちらに向く。
「あっ…俺っす…」
そこにいたのはトムだった。
「あっあんた…」
「どうしたんすか…?まさか明日の作戦ノコとで悩んでるんすか?」
「まぁね」
アスカはこの臆病な男が嫌いだった。鋼鉄機兵に乗った時は性格が変わるのだが…。
「俺も不安っす…いつも誰かが死ぬんじゃないか…不安なんっす…」
「あんたが?だっていつも戦闘中性格変わるじゃない」
「だから不安なんっす…意識が飛んでいつの間にか戦闘が終わっているから…誰かが欠けてることにも…仲間を守ることもできないっす…」
今まで考えた事が無かった。確かに意識が無いなら戦闘中に誰かが死んでもその人の事を気づけない。大事な仲間が突然消える恐怖は私よりも大きいという事だとアスカは思った。
「だから…不安な事は出来るだけ持っていかない方がいいっす…戦闘中に迷いは命取りっすよ…」
「…わかったわ、必ず作戦までには飛ばしていくわ」
「それでいいっす!アスカも…必ず帰ってくるっすよ!」
「トムもね」
「えっ今俺の事…」
初めて彼を名前で呼んだことに突然恥ずかしさを感じ、彼を屋上から追い出した。アスカにとって初めての感覚だった。




