津軽線の車掌
翌日、小岩は津軽線の列車で三厩駅まで往復してみる。
地元、埼玉県桶川市、及び青森県庁で調べた本籍地は津軽半島の地名が乗っていたことから、津軽半島を行く津軽線に乗ってみれば何か分かるかもしれないというまた甘い考えからだ。
乗った列車は701系電車だった。これで蟹田まで行き、蟹田から三厩行きの気動車に乗り、三厩に着く。ここから、龍飛岬までバスで足を伸ばしてみた。だが、やはり何も思い出せない。
落胆して、三厩駅に戻り、青森へ戻る気動車を待つ。
14時42分、三厩駅にキハ48系気動車がやって来る。無駄足にならないよう、その様子を撮影。
2両編成の気動車から初老の男車掌が降りてきた。
「一人旅かい?何処からきたの?」
と、車掌が聞くので、小岩は「埼玉から来た」と答える。
「埼玉か。」と、車掌は遠くを見るような目でつぶやく。
(昨日の県庁の人同様、何か知っているかもしれない。)
と、小岩が思った矢先だった。
「せっかく遠いところから来んだ。よかったら、駅務室においでよ。」
と、松江という車掌は言い、小岩を駅務室に招き入れた。
駅務室には、駅長と車掌しか居なかった。
「昨日の夜行で青森に来て、今夜の夜行で帰る予定です。」
「そうかい。急ぐ旅だな。」
「青森には、津軽線と自分のルーツを探しに来ました。」
「自分のルーツかい。」
「ええ。小学生の6年より前の記憶がすっぽり消えてしまって、本籍地と唯一残っていたブルートレインの記憶を頼りにここまで来ました。」
と、小岩は頭をかきながら言った。
「それは可愛そうにな。」
「小学6年の時、いじめと先生の虐待で消えちゃって、ブルートレインの記憶だけはどういうわけか残っていたのですが―。」
「そうかい。実はな、おじさんも昔、仲が良かった男の子がいてな。おじさんの子と一緒によく遊んでたんだ。4歳のとき、関東に引っ越しちゃったんだけど小学4年の夏休みや冬休みはよく帰ってきては家で遊んでいたんだ。ところが、列島地震があったりゴタゴタがあったりした後、どういうわけかすっぽりと連絡が途絶えて、帰って来なくなったんだ。」
松江車掌の話に少し、気になる所があったが、小岩は4歳の時に青森を出て以来、帰っていないはずだ。小学生の夏休みや冬休みに青森には帰っていない。
結局小岩は、落胆して青森を去ることになった。