再び始発駅へ
金曜の夜に上野を出て、土曜の朝に青森に着いた。そして日曜日の夕方に青森を出て、月曜日に上野に戻り何食わぬ顔で学校へ行く。
小岩剣が松江ニセコと過ごした2日間。
だが、小岩剣には失われた時間を過ごしたように感じた。
さっき別れた松江ニセコの暖かさが身体に残っている。
夜になった奥羽本線を、上野へ向かう上り寝台特急「あけぼの」の進行方向に金星が輝いている。
雪煙を上げながら、一晩かけて上野へ向かう。
B寝台個室「ソロ」の車内で、松江ニセコから貰った曲を聞く。
井沢八郎の名曲「ああ上野駅」だ。
小さい音でイヤホンを付けて聞いていると、微かに列車の音が聞こえてくる。
目を瞑り、松江ニセコと過ごした2日を思い出す。
津軽の空と、一面の銀世界の線路を、青函トンネルを抜ける高速貨物列車や特急列車が駆け抜け、漁師町の漁港からは、何処までも広がる海。そして、遥か彼方には北海道の渡島半島が見える。
(どんなに離れていても、あそこは俺の生まれた故郷。そして、あの人は俺の大切な人だ。)
と、新たに思い、目を開くと列車はトンネルを抜けたところだった。
すぐに小さな駅を通過する。上越線の土合駅だった。
長岡でバトンを受け取った青いEF64電気機関車が牽引する寝台特急「あけぼの」は、水上で運転停車をした後、高崎に停車。
高崎からは、高崎線を走り通勤客でごった返す大宮駅に停車。
次は、終着駅上野だ。
川口駅を通過し、荒川橋梁を渡って東京に入る。
最後の車内放送が流れる。
尾久駅を通過。
ラブホ街の隙間から、建設中の東京スカイツリーが見える。
上野駅の13番線ホームに滑り込み、停る。
ドアが開く。
「うえのぉーっ。うえのぉーっ。うえのぉーっ。終点の上野に到着です。どなた様もお忘れ物落し物無いようお手回り品今一度、ご確認ください。寝台特急「あけぼの」ご利用ありがとうございました。」
再び、小岩剣は東北からの終着駅であり、東北への始発駅、上野駅に戻ってきた。
列車の先頭の機関車を見ると、雪がびっしり付いていた。
「おかえり。小岩君。」
と、学生服姿で待っていた広瀬まりもが言う。
「ただいま。」
小岩剣は、笑って言った。




