津軽海峡
松江ニセコは青森駅まで車で迎えに来ていた。
小岩剣はニセコの運転する車で松江の自宅へ向かうと、津軽線の線路を、青函トンネルを抜けて北海道を目指す高速貨物列車が追い越して行った。
「EH500。つるぎと一緒に見てた時は、ED79の重連だったね。」
冬晴れの澄んだ青空と積雪のコントラストの中、EH500が牽引するコンテナ列車が駆け抜けて行く。
「ニセコ姉さんと一緒に、青森の車庫にも行ったよな。」
「そっ。後、「あけぼの」の客車に落書きしたっけ。」
「ああ。その客車、今は長野にあるよ。」
と、話している小岩は妙に思った。
(なぜ、覚えているんだ?記憶が戻っている。)
小岩は戸惑った。
「へえ。長野で走ってるの?」
「いや、サバイバルゲーム場に置いてあるだけ。」
「そっか。」
松江ニセコは自宅へ直行せず、龍飛岬へ車を進める。
冬の澄んだ空気の中、津軽海峡の向こうに北海道が見えた。
龍飛岬に着く。
「こうしているのも久しぶりだね。」
「うん。」
と、小岩が言ったとき、津軽海峡を2隻の船が航行しているのが見えた。
「大きな軍艦。」
ニセコが双眼鏡を覗きながら言った。
「116って数字が入っているのと、飛行機が載ってる大きな船だよ。」
「父さんの船だ。」
「えっ!?どっち?」
「116だよ。護衛艦てるづき。」
小岩はニセコから奪うように双眼鏡を覗き、父を探した。
だが、父の姿は見えなかった。
「お父さん、見えた?」
と、ニセコが言うのに、小岩は首を振った。
そして双眼鏡を返すと、手旗信号を送る仕草をした。
「航海の安全を祈る。護衛艦てるづき及び米空母ジョージワシントン」
しかし、「てるづき」も「ジョージワシントン」も、それに応えることはなかった。
「見えないよな。」
と、小岩は溜め息をついた。
「日本の海を守り、世界の海を守る船さ。父さんの船は。」
小岩は言う。
津軽海峡を進む護衛艦「てるづき」が汽笛を鳴らした。
「見て。」
ニセコが双眼鏡で「てるづき」の艦橋を見ろという。そこに、父の姿が小さく見えた。
「我、日本海に向い順調に航行中。健闘を祈る。」
と、父が手旗信号を送ってきた。




