青森
寝台特急「あけぼの」は終着駅、青森駅に着いた。
自然と改札口のある列車の後方へ歩いて行き、自然と南口改札口を抜けた小岩は妙な感覚を覚えた。
(どうして、この駅の構造を知っているのだ?)
駅舎を出て少し歩いて駅を見る。
(ここに俺は来た事がある。いや、この町に来た事がある。)
青森駅周辺の町を歩く。
そうしているうちに、海に出た。少し離れた所に青函連絡船八甲田丸が停泊していた。
青函連絡船が停泊している場所を目指し、海沿いの道を歩いて行くと、それは八甲田丸を改装した青函連絡船メモリアルシップで、青函連絡船の歴史を伝える資料館だった。
そして近くの記念碑からは、演歌「津軽海峡冬景色」が流れていた。
歩いている内、気がつくと青森駅からの入換線の先端部に来てしまっていた。
振り返ると、青森駅手前に、黒い貨車が2両保存されているのが見えた。
「あっ時間か。」
と、小岩剣は駅前に戻りバスに乗り込んで、青森県庁へ向かう。旅立つ前、地元の桶川市で自分の本籍地を調べて貰ったら、やはり青森県で1999年に転入とあったことから、同じように青森で1999年に転出した人物の中に自分と同じ苗字の物が無いか探して貰っていた。
県庁に着き、話を聞くとやはり、1999年に小岩剣は両親と共に青森県から出て行っている事がデータになっていた。
「小岩君のお爺さんは知っているしお父さんとは同級生だったよ。だから、小岩剣って言う名前を聞いたら驚いたよ。」
と、50代後半に見える職員は言う。
「それで、何も覚えていないのかい。」
「ええ。何も覚えて無いのです。正確に言えば、記憶がまるで無いのです。唯一残っていた、青森発のブルートレインを頼りに桶川でも本籍地を調べてもらってここまで来ましたが、何も思い出せ無いのです。」
「お爺さんがどうして亡くなったかも、覚えていないのか。」
「はい。」
職員は1999年の新聞記事のコピーを渡した。
「お爺さんの乗る漁船「わじま」の転覆事故。領海侵犯してきた中国海軍の潜水艦にぶつけられてな。」
「父が言っていました。そして、この直後に、大湊基地から横須賀基地に異動になったと言うことも。」
「それに伴って、埼玉県に引越したのだろう。」
しかし、県庁に来て得られたのは、地元の桶川市で調べてもらった事の裏付けにしかならなかった。