カンナのツバサ
JR西日本からはるばる群馬にやって来た梅小路運転区所属のC62‐2号機はオリエント急行来日に備え、旧型客車を使用した試運転をしている。
小岩剣は青森へ行く前に、その姿を一目見ようと考え高崎にやってきた。
高崎駅で三条神流と合流し、撮影ポイントへ向かう。
上越線の八木原―渋川間の撮影ポイントで撮影用意。
「私とつるぎの列車は、翼が描かれている。「はくつる」のヘットマーク。C62‐2号機の除煙板。私達の名前には列車と翼がある。」
という、ニセコの言葉を思い出した。
C62‐2の後ろにJR北海道から来たC62‐3号機、それから旧型客車4両が続く。
「ニセコ再来か。」
次の撮影地へ向かう時、三条神流がつぶやいた。
三条神流の地上空母「エメラルダス」から、空撮機が発進した。
「ニセコさんのココロノツバサの由来になったらしいです。」
「何が?」
「あれですよ。」
横を走るC62‐2の除煙板を指す。C62‐2の除煙板には特急「つばめ」を牽引した当時の証しとして、つばめのマークが埋め込まれ、これが松江ニセコの言うココロノツバサだと言うのだ。
「厨二だな。って言いたいが、それがお前とお前の姉さんとを繋いだって訳か。」
「はい。」
次の撮影地である公民館の駐車場に車を止め、許可を得てから撮影の用意をする。
「最近は許可も取らねえで、人ん家の中に入って写真撮る自称プロ鉄道カメラマンがテレビに出てきて困るんだよな。人ん家の敷地に勝手に入って撮影するって、泥棒と一緒だ。」
空撮機からの映像を見ながら撮影の用意をする。
「三条さんは長野でバスの運転手になったら、群馬には―。」
「しばらく戻らん。だが、俺は本心のままに生きるだけさ。」
C62の汽笛が聞こえた。
自動操縦で飛行している空撮機のSu‐27が飛んできた。
「大丈夫だ。少し離れたところで旋回してれば音は聞こえんよ。」
と、三条神流が言った時、列車が来た。
C62特有の走行音と汽笛の音が周囲に響きわたる。
列車が通過して少しすると、空撮機が地上空母「エメラルダス」への着陸態勢に入り、着陸した。
「もしお前の姉さんが言うココロノツバサが俺にあるとすれば、俺はこいつだな。」
と、三条神流はSu‐27を格納庫に入れながら言った。
C62を求め、三条神流と小岩剣は水上駅で折り返しの試運転を待つ。
昼飯を食べ、15時20分の出発を狙う。
定刻通りに試運転のC62重連は独特の汽笛と走行音を響かせて水上駅を発車する。
C62の走行音は、ジェット機の音に似ている。
それが2両の重連で走るのだから客車が少なくても、物凄い迫力である。
発車を見た後、駐車場に止めていた地上空母「エメラルダス」に飛び乗って高速道路で一気に高崎まで行く。
「俺は、ココロノツバサとやらがどんなものか知らない。が、お前の言うココロノツバサがあるのならば、この地上空母と空撮機がそうだろう。だが、お前のはエンブレムに着想を得た空想上の物だが、俺の場合は形にしてしまっている。」
「自分も、三条さんも共通して言える事があります。それは、一つのシンボルとしている事です。」
「シンボルね。」
「ええ。そして三条さんの場合は、それが形になっています。ですが自分は空想上の物にすぎません。」
高速道路を降りて高崎機関区に向い機関区近くの電器メーカーの駐車場に車を一時的に止めてSu‐27を発進させる。機体のカラーは青と黒に白のラインが入っているが、垂直尾翼には黒地に赤い砂時計が描かれていた。
付近を別のラジコン飛行機が飛行していた。
「エンタープライズの艦載機、F‐4ファントムだ。」
アメリカ空軍機を空撮機にしている第1艦隊もやって来た。
「やってるな。」
と、霧降要が言う。
「小岩。どうだったね第4艦隊に所属して。」
「三条さんと南条さんと共に行動して、刺激になることばかりでした。そして、無くなった記憶を見つけるヒントも沢山見つかりました。」
「そうか。」
と言ったのは、三条だった。
「残念だが、第4艦隊は今年の3月をもって消滅することになる。」
三条の言葉に小岩は(そうだろうな。)と思った。
この後は、霧降率いる第1艦隊に所属しろと言うことなのだろうと小岩は思ったが、三条は意外なことを言い出した。
「群馬帝国国有鉄道埼玉支部として、第4艦隊を引き継いでは貰えないか?」




