戦艦三笠
年が明けた。だが、母は1月中旬からまた海外への勤務に就くことになった。
戻ってくるのは3ヶ月後だそうだ。
そして父も、1月中旬から護衛艦「てるづき」に乗り横須賀から津軽海峡を回って日本海に出て津軽海峡で米軍の空母「ジョージワシントン」と合流し共同訓練に参加した後、共に尖閣諸島を回って横須賀に戻るという勤務に就くので、戻りは3ヶ月後だそうだ。
埼玉でそれを知った小岩は、それまでは広瀬達や三条神流と行動する時間より両親が居る時間を優先することにした。
だが、あっという間だった。
羽田空港国際線ターミナルで、父と共に母を見送ると、その足で海上自衛隊横須賀基地へ行き、父を見送る。
「松江さんが言っていた。小学生の時に迫害されて記憶が消えたみたいだって。」
という父の言葉に膠着する。両親には記憶が消えた事は黙っていたのだ。
「すまなかったな。父さんも母さんも近くにいてやれなくて。」
「なら、どうして父さんや母さんは行くの?」
「仕事だからな。」
「俺の記憶が無くなってまで、やらなければならない仕事なの?」
「すまん。」
逗子駅で横須賀に行く列車に乗り換えている時、高崎車両センターのEF65とEF64のプッシュプルの旧型客車の列車が横須賀方面へ通過した。
田浦を出ると、自衛隊施設や停泊中の護衛艦が見えてくる。
横須賀駅に着くとさっきの旧型客車の列車が止まっていた。
改札を抜けて基地まで行く。
基地の入り口で、父と別れる。
「父さん。俺、父さんや母さんの事、怨んでない。記憶が無くても今は仲間がいるし、ニセコさんや松江さんとも再会できた。それに、父さんみたいな仕事をする人が居るから今の日本が安全であって、母さんみたいな仕事をする人が居るから、日本と外国が結ばれている。だから、父さんや母さんの事、怨んでないよ。」
「そうか。」
とだけ父は言うと、護衛艦に向かって行った。
溜め息をついてヴェルニー公園に行く。
「随分愛想のねえ親父さんだな。」
と、声をかけられる。振り返ると三条神流がいた。
三条神流はさっきの旧型客車の列車に乗って横須賀に来たらしい。そして、小岩を見つけて声をかけたというわけだ。
「エヴァの碇ゲンドウみたいな親父さんだな。」
「ええ。ですが尊敬しています。」
三条神流とバスに乗り、着いたのは記念艦「みかさ」だった。
「俺の曾祖父さんが乗っていた船だ。」
と、三条は言う。
「俺の家もお前の家と同じく、軍属の家計だ。曾祖父さんはこいつに乗ってロシア海軍と戦って、爺さんは駆逐艦「雪風」で真珠湾、ミッドウェイ、そして、戦艦大和の海上特攻に参加した。」
三条の家計の話を聞いた後、小岩も自分の祖父が津軽海峡で死んだことから自分が青森から引っ越してきた理由について推測だが話した。
「中国海軍の潜水艦に―。」
と、三条が言ったとき、コスプレをした女の子達とぶつかる。
三条神流は舌打ちをした。
「巷で話題の美少女戦艦アニメのコスプレーヤーが、三笠でコスプレ撮影していると聞いた。俺はいい気しないね。こいつは撮影のスタジオじゃねえ。日本海海戦で生死を賭けた戦いをした船だ。それに、戦艦を美少女化するな。爺さんが言っていた。戦艦「大和」が米軍の攻撃で爆沈した時、目の前で数千もの人が死んだって。なのに、美少女戦艦は被弾したら全裸になる?ふざけるな!」
祖父が中国海軍に殺された小岩も、三条神流の気持ちは分らなくない。
「平和ボケが聞いて呆れる。」
「ええ。自分も歴史の勉強はしています。日本海海戦は日本の圧勝でしたが、ロシア海軍バルチック艦隊は壊滅。そして、日本とロシア双方で沢山死んだと聞いてます。」
「美少女戦艦にヨダレ垂らしてる奴等ほど、「戦争反対!」とか叫ぶんだから余計に胸糞悪いったらありゃしねえよ。」
三条神流は戦艦三笠の艦橋から、マストに掲げられたZ旗を見上げる。小岩が三条神流の足元を見ると三条神流の立っている場所は、東郷平八郎が日本海海戦で指揮を取っていた場所と書かれていた。
三条神流と小岩剣は再びヴェルニー公園に行くが、護衛艦「てるづき」はまだ出港しないようだった。
横須賀線と湘南新宿ラインを乗り継いで帰路につく。
「2月の連休に青森に帰ることになりました。」
「そうか。そうなると、C62のデビュー戦には参戦できないかもな。」
「は?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ。」




