正月休み
冬休みになった。
松江ニセコから連絡が来たが、冬休みは多忙であり2月の連休に青森に帰ると言うものだった。
小岩剣は少しホッとした。せっかく帰ってきた両親と過ごす時間も貴重なものだからだ。
といっても、父は横須賀基地へ通勤する日も多く、母も東京都内へ通勤するため、両親と会えるのは夕方から夜にかけてだ。
そんな最中、正月休みに青森にある祖父母の墓参りに行こうと両親が言い、休暇を取ったことと、東北新幹線の往復切符を見せた。だが、その直後に三条神流から、
「JR北海道のC62‐3号機がオリエント急行来日に伴いJR東日本に譲渡され、高崎機関区に配置されることになったぞ。」
という連絡が入った。
それには、群馬に来いという意味合いも含まれていたが、小岩は正直に両親が帰ってきていることと、青森に両親と行くことになったと言う事を伝えた。
「そうか。お前の親父さんは自衛官、お母さんは外交官だからな。そっちを優先しな。情報には、C62‐3の他、C62‐2号機もJR西日本からJR東日本に貸出されるという物もあるが、もし気が向いたらこっちに来い。まあ、両親のことを優先しな。」
と、三条神流は言った。
12月31日~1月2日まで、まとまって休みを取れた両親と共に東北新幹線「はやて1号」で八戸まで行き、特急「スーパー白鳥1号」で一気に青森に帰る。
「いつの間にか、こんなに近くなったんだね。」
と、母が言った。
青森駅を歩くと、見覚えのある人と会った。
「車掌さん。」
と、小岩の方から声をかける。
「あれ?君は―。」
松江は少しの間を置いて、
「つるぎ君か!」
と言った。
「今日は両親と祖父母の墓参りに来ました。」
両親も松江に挨拶する。が、「ご無沙汰です」と両親の方から言っていた。
(俺ん家と、車掌さん、ニセコさんはかなり深い関係だったのかな。)
小岩は思う。
津軽線の列車で隣りの油川駅まで行くのだが、次の列車まで時間があるため駅前で昼食を食べる。
「車掌さんと家ってどんな関係だっけ?」
と、小岩剣が言い両親が「えっ?」と言った。
「剣。覚えてないのか?」
父が言うのに小岩は肯いた。
「松江さんの家は青森の家の隣の家で、ニセコちゃんって娘さんが産まれたもののその後、奥さんが事故で死んじゃって家で少し面倒見ていた。その代わりに、剣が生まれた時は面倒見てもらっていた。」
母が言い、同時に松江の影響で鉄道好きになっていた事やニセコとの関係に着いても知った。
墓参りに来たのはかなり前なのだが、その割に墓は綺麗だった。
「松江さんが綺麗にしてくれてたのかな。」
と、父が言う。
墓参りの後、小岩剣は青森駅の近くにある青函連絡船「八甲田丸」が停泊している桟橋から、陸奥湾を見る。
(爺さんのことも分らない。中国海軍の潜水艦にぶつけられたってのも後で知った事。でも、この町の人と確かに繋がっている。)
「つるぎ君。両親を放り出してどうするんだ?」
振り返ると、松江がいた。
「あの時、気付かなかったよ。まさか君が帰ってきたとはな。」
「スミマセン。列島地震があって、その後、親父が災害派遣だの、母が外交官だの色々ありまして。帰りたいと思っても―。」
「その記憶も消された。学校のいじめと虐待で。」
小岩は肯いた。
「亭のいいやり方だ。両親と離れて暮らす君は、寂しい反面、こういう扱いをされやすい。「子供を放り出す両親が悪い」ってね。」
「―。」
「だが、君は埼玉に住む女の子を選んだ。と言うより、友達達を選んだ。家で貰われることになりそうな時、「埼玉には友達が居る。みんなと一緒にいたい。姉さんと会う機会は少なくなるけど、みんなが居るから寂しくない。」って言ってな。」
「そうだったのですか。もしそうだったのなら、失ったものの方が大きいですね。と言うより全て失いましたね。頼りにしていた友達からいじめられ、教師に虐待された挙句、記憶が無くなってしまった。」
「いいや、全てを失ってない。だからこそ君はここへ帰って来た。そして今ここに居るのだよ。」
松江は言うと、
「さっ早く駅に行きな。喫茶店で、お父さんとお母さんが待っているぞ。」
と言った。




