帰港
修学旅行からしばらくして、小岩剣の両親が揃って帰ってくると連絡があった。
小岩剣の父は土曜日に、ソマリア沖から横須賀へ帰ってくるので、横須賀に行く。しばらくして、海上自衛隊横須賀基地に護衛艦「てるづき」が入港する。
入港してから2時間ぐらい待っただろうか。
「つるぎ」と呼ばれる。
「父さん。お帰り。」
「横須賀基地まで来てくれるとはな。」
驚いた顔で父は言った。
横須賀線に乗って自宅へ向かう。
「正月明けまでは地上勤務だ。その後はどうなるか―。」
と、父はいうが、これまでにも父は災害派遣やPKO活動で予定より早く出港することが多々あった。
「そうか。」
「すまないな。」
「何が?」
「母さんも父さんも、海外勤務ばかりで、つるぎには辛いことも。小学生の頃のことも。」
「あの頃はそうだった。父さんのこと怨んだこともある。でも今は違う。周りの人達が支えてくれる。父さんと母さんはもちろん、姉さんも居る。」
「姉さんって、あのニセコちゃんか。」
父が言う事に小岩は少し驚いた。
「父さん、知ってるのか?」
「知ってるも何も、青森で暮らしてたときの仲良しさんで、小学4年の冬休みまでは、一人で会い行ったりしてただろ?」
小岩は無理に笑っていた。
だが、それは今までのものとは違っていた。
小岩は両親に、記憶が消えている話はしていない。無理に笑顔を取り繕っていたが、今回はそれも苦労しなかった。
(そうか。ってことは、ニセコさんと俺は小学生まで会っていたんだな。)
と、思い直すだけだった。
月曜日には母親が帰って来た。
海外勤務の母と自衛官の父と小岩剣が3人揃うことは半年に1度あるかないかだ。
未だソマリア沖では海賊が出て商船が襲われる事がある。先日は米海軍の駆逐艦が海賊の艦艇と戦闘状態に陥り米軍側では死人が出たらしい。
日本の近海も、中国の海洋侵出でピリピリしている。小岩の祖父も、漁船が中国海軍の潜水艦に衝突されて死んだのだ。
母も、海外へ行き日本との安全な外交に貢献している。
しかし、日本の外では何が起きるか分らないし、日本国内でも何が起きるか分からない。平和国家を謳っているがそれとは名ばかりに、日本も安全と言えなくなってきているのだ。




