サッキヤルヴェン・ポルッカ
修学旅行から帰ってきた小岩は、再び群馬の三条神流を訪ねる。
三条神流は念願かなって交通会社の就職が決まったらしいが、群馬の会社ではなく長野の会社だという。
「就職先はアルピコ交通。バス520台、不動産、自動車整備、鉄道事業、ホテル事業と、いろいろやってる。俺が行くのはバス事業部だ。」
小岩は意外に思った。
「アルピコ交通でやることは、バス事業部でバス運転手さ。」
余計に意外に思う。
「運行管理者でなく、運転士ですか。」
「運転士って仕事がやりたくてな。」
三条神流は照れる。
「俺、大学出たら群馬帝国国有鉄道を抜ける。それで、姉ちゃんの婿になる。戦国時代から続いた三条って苗字もこれでおしまいさ。もう、戦国時代からの由緒ある苗字も何の役にも立たない。上杉謙信に通じている家計でも、今の時代には逆にからかわれる原因だ。」
「南条さんと結婚されるのですか。」
「二種免許取得して路線バス運転手としてデビューしてからの話だがな。」
三条神流は苦笑いを浮かべる。
三条神流は最近、ロシア民謡やフィンランド民謡ばかり聴いているらしい。
「フィンランド民謡のサッキヤルヴェン・ポルッカ。ロシアにサッキヤルヴィって町を奪われたフィンランド人が、慕情や哀愁を込めた歌詞を曲にのせ歌い継いできた。お前に通づる部分もあるんじゃないか?」
小岩は聴いてみる。
フィンランド語は分らないが、なんとなく惹かれる物を感じた。
「例の落書きと手紙の主に会ったってな。」
「ええ。」
「どうだった。」
「最初は分けが分かりませんでしたが、徐々に打ち解けていく内に、あの人が姉さんだった気がしました。それで―。」
小岩はニセコから、また青森で会おうという誘いを受けている事を伝える。
三条神流は三奈美と同じように「そうか」とだけ言った。
地上空母「エメラルダス」で高崎機関区に行き、小野上工臨を撮影する。DD51‐842がホキ800を牽引する小野上工臨は定刻通りに通過した。
「小野上って女子と仲良くなろうと、小野上工臨で話を広げてみたのですが―。」
「滑ったんだろ?」
小岩は肯く。
「分かる奴にだけ分かればいい。それが鉄道マニアの世界さ。最近の鉄道ブームはどうも嫌なものに見える。分らない奴が分かったふりしてやりたい放題やり始めるぞ。まあ、サバゲーと一緒だ。ルールとマナーを守ってやっていれば安全だし誰も咎めない。それでも勝手にやるような奴は、ほっとけばいいさ。」




