寝台特急あけぼの
寝台特急「あけぼの」は2010年において、上野―長岡間をEF64が、長岡―青森間をEF81が牽引している。
編成は24系客車9両。小岩剣は青森函館フリー切符を使用し、B寝台個室ソロに乗る。
上野のラブホ街を抜け、大宮を過ぎ、熊谷まで来ると、もう都会の灯りは無く、静寂な夜の闇が広がる。
上段の個室からの見晴らしは良い。上段ならば、窓のカーテンを下ろさなくても駅で覗き込まれるような事はほとんどないから、カーテンを開けたまま電気を消して寝台に横になる。
高崎を出ると、上越線をひた走り、谷川岳を越える。
小岩剣はこの間に眠ってしまった。気が付くと夜は明けていた。時計と時刻表から現在位置を推定する。
(もうすぐ秋田か。)
と、思う。
予想通り、列車はまもなく秋田に止まるという車内放送が流れた。
秋田には4分停車。慌ただしく駅弁を買って個室に放り込み、列車の先頭へ行くと、そこには「はくつる」と同じ、赤いEF81電気機関車が列車の先頭に立っていた。
しかし、ここでも小岩は何も思い出せなかった。
列車は秋田を発車。小岩剣が「あけぼの」で旅立った目的は、記憶を完全に蘇らせるのではなく、消えた記憶の手掛かりを求めているのだ。青森へ行く根拠は、事前に、地元の市役所で本籍地を調べてもらった結果、本籍地はやはり「はくつる」の始発駅、青森であったからだ。そうと分かった小岩は一刻も早く青森へ行こうとしたが、新幹線で一気に行ったり、高速バスでリーズナブルに行くより、唯一のヒントであるブルートレインに乗る事で、より手掛かりを掴めるのではと思ったが、そう甘くなかった。
デッキの水飲み場で水を飲む。最近の列車では、紙袋のような紙コップに水を入れるタイプの物は無いがこの列車では健在だ。
(最近の列車は水も買わされる。水代ぐらいケチるなよ。)
と、思う小岩だ。
寝台特急「あけぼの」は北へ向かっていく。もう4月だが、まだ雪が残る景色の中、列車は秋田県と青森県の県境を抜け、大鰐温泉を過ぎ、最後の停車駅、弘前に停車。
弘前駅の発車メロディーは、津軽三味線の津軽じょんがら節だ。
弘前駅を発車し、津軽富士として親しまれる岩木山を見ながら、列車はまもなく青森駅に到着する。