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流れ者

 修学旅行の班行動の計画を立てたその日、珍しく小岩の家に郵便が来ていた。

 差出人を見て驚いた。それは、青森の松江という車掌からだったのだ。

(どうして松江さんが俺の家知ってるんだ?)

 封筒の中身は4枚の便箋だった。内、1枚は車掌からだったが、3枚はその娘からの物だった。車掌からの手紙は、

「突然こんな手紙を送ってしまい困惑しているでしょう。小岩剣君。君が青森に帰ってくるのを心待ちにしていた。ニセコも君に会いたいと言っている。もし冬休みに帰って来れたら帰ってきて欲しい。」

 という内容だった。

 もう一つ、ニセコという娘からのはわけが分からなかった。

「つるぎ?元気にしてる?列島地震の後、何も連絡なくってすっごい心配していたんだよ。お姉ちゃんの事、忘れちゃってないよね?会いに来て。と言うより、会いに来て欲しい。私は今、青森を出て京都の観光バス会社に居るんだけど、お盆休みや正月休みには戻る事もあるから、その時青森に来て。私とつるぎの絆、ココロノツバサ。」

 小岩剣はこの週の日曜、群馬の三条神流にこの手紙を見せた。

「なんだかわけが分からないです。」

「当たり前だ。向こうはお前の記憶が消し飛んでんの知らねえんだから。それより―。」

 三条神流は地上空母「エメラルダス」でどこかへ向かう。

 着いたのは群馬名物焼きまんじゅうの店だった。

「まあ、焼きまんじゅうでも喰いながら話そうぜ。」

「あら、三条君珍しいね。」

 と、看板娘が言う。彼女は松田彩香。群馬帝国国有鉄道の技術士官でもある。

「ちょっと頼みがあってきた。この写真の文字と、この手紙の文字の筆跡鑑定をね。」

「はいはい。あんたが家に来るってことはそういうことね。結果は明日か明後日になると思うよ。」

 と、松田は言う。

 店を出た時、松田は「ダスヴィダーニャ」と言った。

「ロシア語で「さよなら」って意味だ。連合艦隊内部において、俺と松田だけがロシア語出来る。」

「私とこいつだけの暗号よ。」

 と、松田はニヤリと笑った。出てきたついでに、SLの撮影を行う。今日はD51‐498は団体列車に使用されるため、午後に高崎駅を発車し水上へ行くという珍しい時間での運行だ。

 クラブツーリズム主催の温泉旅行の団体列車の返しの列車は「夜汽車」として運行されるらしい。

 往路の列車を撮影していたら、松田から連絡があった。

「予想通りよ。同じ。」

 と、松田は鑑定の結果を伝える。

「そうか。分かった。」

「仕事の休み時間返上してやったんだから、感謝しなさいよね。」

「スパシーボ。」

 三条神流はロシア語で「ありがとう」と言った後、小岩剣に鑑定結果を伝えた。

「勤め先まで書いてやがるし。えっと、帝産観光バスだってよ。クラブツーリズムとか、阪急バスかと思ったぜ。京都と言うから。」

 三条神流は小岩の手紙を見て言う。

「三条さん。南条さんのことをどう思ってますか?」

 三条神流は小岩の突然の質問に戸惑った。

「どういう意図だ?」

「自分は解らないのです。記憶が消え、顔も分らない人が姉弟のような関係だったのだと名乗っても、気味が悪いのです。三条さんは南条さんと姉弟となったとき、どんな気分でしたか?そして、今、南条さんをどう思っているのですか?」

 三条神流は吐息を吐いて、

「好きだ。」

 と言った。

「姉ちゃんのことは好きだし、姉ちゃんを中心に長野全体の事も好きだ。最初は戸惑ったが、付き合っていくうちに俺は姉ちゃんの弟でずっと居るような気がしてきて、いつの間にか好きになってしまった。だが、俺と姉ちゃんがそうでも、周りの見る目は違う。俺はどんな理屈を並べても、どんなに姉ちゃんが好きでも、周りの人から見ればただの流れ者にすぎない。姉ちゃんの両親だってどう思っているか分からない。流れ者の俺に姉ちゃんはやらないと思っている。いや、それが世間一般。どこの誰か分らない人間を交際相手と認めることはないだろう。だが、お前は違うだろ?本来のお前に戻ろうとしているのだ。それを咎める奴は居無い。せいぜい余所者が横槍や茶々を入れるぐらいだろ?お前の記憶を消した奴はお前が家に帰るのを、本来のお前である事を邪魔する者。そのような奴を許すわけにはいかんだろう。だが、お前が本来の姿に戻るのなら、咎める奴はない。だが、俺は咎められる。お前が羨ましいくらいだ。」

 三条神流の答えは答えになっていないようにも思えた。


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