悪夢
「女はお前から金を欲しているのだよ。死んだほうが楽だ。」
小岩は悪夢に魘されていた。小学6年の担任教師に監禁され、罵声を浴びせられている夢だ。
「お前は補助金で暮らす税金泥棒。人間のクズなんだよ!」
顔面を殴られる。
「死ね!消えろ!死に損ない!ウンコタレ!」
殴る蹴る金属バットで殴打。拘束されている椅子ごとぶん投げる。
魘される内、ベッドから落ちて目が覚める。
時計を見ると午前5時だった。
悪夢を見ると小岩は自分の殻に閉じこもってしまう。
この日も同じだ。
だが、事情を知らない下山や広瀬は何気なく声をかける。しかし、小岩は必死に避けるか、耳を塞いで狂う。
「また悪夢を見たんだろ。」
と、三奈美が言う。
「数カ月に一度、悪夢を見るらしい。決まって監禁されて罵声と暴行をされている夢だそうだ。」
「そんな―。」
広瀬は絶句した。
「私達の事は忘れても、その記憶だけは覚えているって訳ね。」
下山が小岩を睨む。
「思い出そうとしても、思い出せない。思い出す前に、監禁されてる記憶が蘇る。」
小岩は言った後、
「本当はお前ら、俺から金でも取ろうとしてんだろ?」
と、言い放つ。
それに、広瀬が怒って小岩の顔面を拳で殴った。
「なんでそんなこと言うの!私が小岩君の物を何か盗んだって言うの!?」
もう一発殴ろうとして三奈美が止める。
「お前、殴ってら記憶が戻るとでも思ってんのか?」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「お前らがいなければ出来ないが、お前らがいるなら話は別さ。要するに、バイパス作って嫌な記憶、欝になる引き金になる記憶を避けてお前らの記憶だけ思い出せるようにするんだ。」
「言うのは簡単ね。バイパス道路作るみたいに行かないよ。」
「そうだ。でも、バイパス道路はどういう目的で作る?」
「交通量が多い道の交通量を分散させるため、混雑する場所を迂回して渋滞緩和の目的で作る。」
「そうだ。それで、小岩の記憶は今こんな状態だ。」
三奈美は白紙に道を書いて見せた。




