三奈美と三条
三奈美つばさが長野に出撃した理由は長野総合車両センターのDD16が高崎車両センターの旧型客車を牽引する臨時列車を撮影するためという名目だったが、行程中にかつての同級生で片思いされていた持田明里と再会し、彼女と過ごしていた。
別れ際に長野駅前で盛大に抱き合ってキスしていたところを、同じく長野から高崎へ戻る三条神流に見られてしまい、三奈美は身を縮めた。
「いや、俺も列車を見るはずが、別の名目になっちまってるよ。」
と、三条神流は頭を掻く。
三奈美は三条神流の好意で、切符を払い戻し、地上空母「エメラルダス」に高崎まで乗せてもらう。
「そういや、小岩にはあんな相手は居るのか?」
「いえ。かつては広瀬さんに面倒を見てもらっていた事もあるみたいですが―。」
「そうか。立ち入った事を聞くが、なぜ小岩は記憶を?」
三奈美は、広瀬から聞いた小岩が記憶喪失になった経緯を話す。
三条神流は黙っていたが、話終えると溜め息をついた。
「酷い話だ。俺の家は、曾祖父と祖父が海軍だった。だが親父は「人殺しは嫌だ」と言って自衛隊に行かず公務員をしている。それを親父のダチは根性無し!って言ったらしい。んで、俺が自衛隊行こうって言い出したら周りの奴は人殺し!って言う。独断と偏見で筋が通れば、テロなんか起きないっての。そうだろ、姉ちゃん。」
三奈美は「えっ?」と思った。
「三条さん、お姉さんが―。」
「居る。でも血は繋がってない。」
「あっ、スミマセン。複雑な事情で―。」
「案外、小岩と俺って似てるのかもな。」
三条神流は言う。
地上空母「エメラルダス」はずっと下道を走り、碓氷峠を越える。
夕方に出発したが、もう夜になり、高崎に着いた時には終電時刻の30分前だった。
高崎線の列車に乗り、鴻巣に帰る。
三奈美は、財布から持田明里と撮ったプリクラを出す。
(まさか、中学時代に転校していった奴と再会して、いきなり付き合うことになるとはな。案外、小岩も広瀬や下山と付き合うことになるんじゃないかな。)
と、三奈美は思った。




