閑寂2
そうなんですか、とはるは相槌を打った。一回置いてけぼりにされた流行にもう一度興味を抱くことは出来なかった。昔の自分だったなら死に物狂いでチケットを取ったであろうに。学生時代から変わらず自分はここにいてその代わり映えのしない世界。今日も明日も明後日も。しかしはるにとってここのライブハウスは居心地が良いものであった。
「そろそろ終わりますね。」
ミカが扉の方へ近づくと聞き耳を立てた。アンコール!アンコール!と終わりを嘆く音が響いている。この臨場感、思い出す。ライブっていうのは本当に一度きりの夢だ。この夜が永遠に続けばよいのに。そう思いながら、叫んでいた。いいなあ。私はここが好きだな。はるはしんみりとそう思った。このライブが終わったらグッズ販売を再開させなければならない。今日も夢から覚めた人々がここから出てくるのだから。
物販が終わると外はざわめき始めていた。ファンたちがいまかいまかとバンドマンが出てくるのを待っている。ハルたちは物販で使った机を中に運び入れた。これであとは点検して鍵を閉めれば終わりだ。バンドマンたちも、もう帰宅の準備をしているだろう。ようやく一日がおわる。ハルは立ち上がると飲み物を取りにスタッフルームへと急いだ。喉はカラカラだった。一息ついてから、片づけをしたいそんな気分だった。前をみず、足先だけをみてコツコツと前に進む。それははるの急いでいるときの癖だった。