チートゲットだぜ!(なお自前調達の模様)
《承っていたポイント配分の比率も決まった。神格の維持に半分、少年が持つべき魂の書の強化にもう半分を使う形になるが――》
「それで構いません。よしなに取り計らって下さい」
「文華様がそう言うならそれで」
《了解した》
フェアリー01が応えると、暖かで神秘的な光が文華様の身体を包み込む。何か変わったのか外見からは解らないが、ユウが相対すると彼女の存在感が濃くなった気がした。
「ゆ、ユウさん……っ」
「ん?」
「私の寿命が伸びました」
「おお、やったじゃん。これでもっと神様ライフ送れるな」
「……その、五百年も……なんですけど」
「へー、そうなんだ」
と、ユウは微塵も気にした様子を見せない。なんせB教伝わる御国からの成仏魂であり、そもそも文華様は神格者であらせられる。なもので、ユウは当然のように人類換算の寿命では受け止めていなかった。
「仏尊の弥勒菩薩様とか寿命が最低でも5億7600万年もあるんだし、誤差でしょ?」
《新参の神の寿命は千と数年と規則で決まっている。……修行で千年使いきったから残り五年も無かった》
「……これがもし、煩悩マシマシな人間の信仰心だと?」
《そうだな……これもピンからキリまであるのだが、一生涯掛けて寿命1周間追加がザラだな》
「これでユウさんが居なかったと思うと……」
ユウはここにきて、敬虔な信徒を欲する神々の気持ちが少しだけ理解できた。一人居るだけで、もう数百年生きられるドン! なのだ。苦楽を超越してるから必然的に自助努力の精神を持ち、神の手を煩わせようとしない。おまけに命ある限り真摯に祈りを捧げてくれる。そりゃ神様も欲しがるし、可愛がるというものだ。
「割とギリギリだった?」
チラリと文華様の方に目線を向けると、ぶんぶんと何度も首肯された。
収まったら収まったで、何やら感動されたご様子でこちらを見つめられる始末。自分の立ち位置が彼女の心の中で着実にランクアップしている気がしてならない。これって生まれる前から人生のハードルが上がってませんかねぇ。
「……お釣りは要らないよ?」
「くれと言われても、もう返せませんよぉっ」
「言わない言わない。ここは一つ、敬虔な信徒パワァってことで」
《うむ。これからも励むように》
一日たりとも彼女を崇め奉った記録は残っていないが、当人が敬虔な信徒と世界に宣言し、神格に影響を与えた実績があるのならそれはもう事実なのである。細かいことを気にしてはいけない。
《――では話を続けるぞ。敬虔なる信徒ユウ》
「はい」
《貴殿には【識字と知識の加護】を与える。これは魂の書に記述された内容を読み解き、正確な知識として活用出来るようになる加護だ》
万が一、文盲に育ったとしても、魂の書を読むことは出来るという訳である。安全性バッチリだ。
「……それだけですか? も、もうちょっとだけあったりしませんか?」
だが文華様からみれば不本意であったようだ。取扱説明書のような力など、最初から在って当然と言いたげな表情をされていらっしゃった。
《他にも、世に出回っている書物を読む時にも自然と頭に入るようになる。全く未知の言語を目にしても、最低限の教養さえあればある程度の見当が付けられるおまけ付きだ》
「おぉ」
「ま、まぁそのぐらいでしたら当然ですよね」
ドヤ顔なのに「思ったよりも強力だった」とたじろいで、ドキドキ汗模様を浮かべる御本尊様のお姿が涙を誘う。恐らく【読んだ本の内容を長期間覚えていられる程度の能力】を想像していたのだろう。
自分一人だけでも褒めようと、流石は文華様の加護だと、ユウは心の中で讃えた。守護獣たぬー(仮)もニコニコ笑顔で許してくれるに違いない。
《無論、これは必要最低限の異能に過ぎない。本命は拡張スロットだ》
「「拡張スロット?」」
二人一緒に声を出してハモる。まさか更に別の力を貰えるとは想わず、驚きのまま二人は固まってしまった。
《魂の書には最大で六つの権能を封じ込め、任意に解放することが出来る。ただ、現時点では1つしか解放出来ない。申し訳ないが、その最初の1つは既にこちらで決めさせてもらった。無論、少年の希望に沿った力であると確信している》
「それは?」
《隔意に対する複合耐性だ。これは少年が生前手にしていた力なのだが――》
「なにそれ聞いてない」
特殊能力とか初耳に過ぎるだろう、平和ボケした日本人魂の常識を考慮して頂きたい。
《身分蔑視、種族差別、能力侮蔑、境遇断崖、美醜無礼、思想烙印、灼情蠱毒、神格隷属――全種超克済み……凄まじいな》
「総てを超越して優しく受け入れいれる“空の心”ですね。ユウさん、素晴らしいです」
ユウを除く二人が至極真面目な声音で語るものだから、ユウは気恥ずかしくなって頭を掻いてしまう。
聞くに限り相当なチートらしいが、凄い凄いと持ち上げられても今ひとつ実感が湧かないのだ。何故なら、それを掻い摘んで言えば――
「――つまり、誰とでも仲良く出来る力だよね?」
《うむ》
「やっぱりそうか畜生ッ! わざわざ言い直さなくても良いじゃねーか! いっそ恥ずかしいわっ」
そんな力を限界まで格好良く表現しなくても良いと叫ぶように、ユウは頭を抱えてゴロゴロと左右に転がりだした。
「いやいや少年、これはとても得難い力なのだぞ」
「んな訳あるかぁ~っ」
「そうなんですよ、ユウさんっ。凄い力なんですっ」
敬愛すべき文華様のフォローも入って、ユウはようやく動きを止めた。
「…………そう?」
「はいっ」
「そっか……きっとそうなんだよな」
「はいっ」
落ち着きを取り戻したかのようにムクリと起きて、文華様に向かって正座スタイルで相対する。内心では手に余る力を受け取らなくてセーフ、と胸を撫で下ろしていたのは内緒である。
これも自前の力と言われれば損をした気にもなろうが、本来なら生まれ直して一から育てなければ得られない力と考えれば、かなりお得だとユウは考えていた。実際問題、心の闇に一度でも囚われてしまえば抜け出すのは至難の業なのだ。相当の反省と克己心が必要とされるのは想像に難くないだろう。
「なら、それを有り難く」
《うむ》
自前の特殊能力の譲渡はつつがなく完了した。