episode2
それから、二週間経った。
久しぶりにページを見てみたが、月代うさは更新を続けている。今日も二作、更新していた。
活動報告で言っていた通り更新スピードは生前より早い。文字数も多めになっている。
いつもは、千文字ぎりぎりとかばっかりだったのに……。
私にだけ、先に見せてくれていた新作も投稿されていた。
『翼を広げ』というタイトルで、一話三千字程度だ。
内容は、厳しい家庭に生まれた女の子がチャラい男の子に恋をする話。珍しく完結させられそうだと言っていたから、私もしっかり読んでいた。
深月は完結させるのが苦手だから、完結できそうだっていうのは結構レア。でも、まだ私は完結までは見せてもらっていなかった。
まだそこまで書ける時間がない、と、彼女は言っていた。でも、なろう内での『翼を広げ』は私の読んでいないところまで更新されている。
予約投稿じゃ、ない。なら、やっぱり今書いてるってこと?
私は、深月に勧められて登録したアカウントを使って、月代うさにメッセージを送った。深月は、名前を見て私だとわかってくれるはずだ。
「件名:深月ですか?
本文:
私だよ。山中佳奈だよ。
今、何してるの?生きてるの?
なんで小説の更新ができてるの?どこにいるの?
もし、2月からずっと更新しているのが本当に深月なら、ちゃんとメッセージ送って。
説明して。
返信待ってるよ。」
送信する。これで、返事がくるのを待つだけだ。
でも、本当にどうなっているんだろう? 深月はどこかで、生きている?
しばらく深月の小説を読んで暇をつぶしたけど、メッセージは来なかった。少なくとも、暇ではあるはずなんだろうけど……。なんで?
やっぱり、何かがおかしい。でも、どうなっているのか私には分からない。
月代うさはここにいるのに、島田深月は存在していない。でも、月代うさは島田深月なわけで、それを知っているのは私だけ。
……ん? 私だけ?
「……私、だけ?」
私が、月代うさが深月だと知っているから? だから、私は深月の事を忘れなかったの?
だって、それしか考えられない。私だけって言ったら、それくらいなものだ。彼女と私の、つながりといえば……。
「深月、返信してよ」
自分のユーザページを、私はボーっとしながら眺めていた。
新着メッセージは、その日一件も来なかった。
何日も、返信を待っていた。私はずっと、待っていた。
深月なら、小説の更新をしているのが本当に深月なら、返事が来るはずだと思ったからだ。
どこにいるのかわからない。生きているのか、死んでいるのかも分からない。どうやって小説の更新をしているのかも……。
それでも、いや、それを知るために、私は返信を待っているのだ。
深月と、もう一度つながりたい。もう、会えないかもしれないけど、それでも、メッセージを交わしあえるなら。私は、深月のことが大好きだから。
よく考えてから、もう一度メッセージを送ることにした。
「件名:佳奈です
本文:
深月、このメッセージを読んでいるんだったら返信して。
本当に心配だよ。
もし、このメッセージを読んでいるのが深月なら、私はこのメッセージでだけでもあなたとつながりたい。深月が死んじゃって、本当に悲しいんだよ。
それに、誰も深月のことを覚えてない。私にもよく分からないけど、深月のこと、誰も覚えてないんだよ。
お願い、深月。
私は深月と、もう一度話がしたい。」
送信してページを閉じると、私はパソコンの電源を落とした。