episode1
私の親友は、三ヶ月前交通事故で亡くなった。14歳だった。
彼女の名前は島田深月。『小説家になろう』というサイトで活動していた。確か、ペンネームは『月代うさ』だったかな。
久しぶりに、月代うさのページを開いてみる。きっと、彼女の小説を読んでいた人は誰も、まさか死んだとは思わないだろう。私だって、深月が死ぬなんて思ってなかった。
そのとき、驚きの光景を目にした。
『青い空の彼方』最終更新日 2016年2月4日
『平行線』最終更新日 2016年2月1日
『夏の日』最終更新日 2016年2月11日
「どういう、こと……?」
今日は2月11日。深月が死んだのは三ヶ月前、昨年の11月2日。計画性のない深月が、こんな先まで予約投稿設定をしているはずがない。
それも、2月に入ってから更新を再開している。一体、何が起こってるって言うの――――!?
2月12日。学校に行ったら、深月の席はなかった。昨日まで、花が置かれていたのに、そこには違う人が平然と座っている。花は見当たらない。なんで?
座っているクラスメイトを問い詰めると、島田深月なんて知らないと言う。知らないなんて、意味が分からない! どうなってるの? 深月、今どこにいるってのよ。
先生も誰も、深月を覚えていなかった。去年の、一昨年のクラス替えの紙を何度見返しても、島田深月は見当たらない。
深月は? 深月はどこに行ったのよ!
彼女の家にも行った。島田という表札の掛かった、見慣れた家。だけど、出てきた深月の母親は、娘はいないと言い張る。私のことも、どうやら覚えていないようだ。
……なんで? どうして? 何があったっていうの?
走って家に帰って、月代うさのページを開く。
『平行線』最終更新日 2016年2月12日
「また!!」
また、更新されている。書き方も深月にそっくりで、とても他人がパスワードを盗んで続きを書いているようには思えない。
情景描写が綺麗な文章が続いている。文字数も、今までとほとんど変わらない。
「……深月、生きてるの?」
それともここは、パラレルワールドとかいうやつ? だって私以外誰も深月のことを覚えていない。分からない。わからないけど、でも、三ヶ月前、たしかに深月は死んだ。遺体を、私はこの目で見た!
絶対に、間違いじゃない。これは事実だ。
月代うさは、活動報告も新しく書いていた。
「題:お久しぶりです
本文:
お久しぶりです。月代うさです!
三ヶ月ほど休んでいて、本当にすみませんでした! 合作をしている方も全然書いていませんでした。
2月からやっと書き始めて、ちょくちょく更新しています。更新スピードは前よりも早くなるはずです。
文字数も少しずつ増やしていく予定ですので、よろしくお願いします。
それでは。」
下には、コメントも並んでいる。
「橘
うささん、お久しぶりです!
しばらくお見かけしなかったので、どうされたのかと心配でした。
更新がんばってください!」
「リズ
うさちゃん久しぶり!元気そうでよかった!
これからも頑張れ~!
合作のことは気にしなくてええからね!ゆっくり書いてな!」
他のユーザの返答は特におかしな点はない。月代うさに関する記憶はあるようだ。
なら、どうしてみんな深月の事を忘れているんだろう? それに、何で私だけ覚えているの?
月代うさは、それぞれのコメントに返信していた。
「月代うさ
橘さん
コメントありがとうございます!
ありがとうございます。頑張ります!
リズちゃん
ありがとう! 頑張ります!
遅れてほんとにごめん! 3日で書く!(笑)」
私が知っている限りでは、橘さんは社会人で、リズさんは私たちより一つ年上だったはずだ。口調や個々のユーザさんに対する対応の仕方も、明らかに深月。
ならやっぱり、このコメントをしているのは深月? でも、なんで?
彼女は死んだはずで、そしてみんなの記憶から抜け落ちていて、それどころかいなかったことにされている。
だけど、小説の更新や活動報告はちゃんとしているし、本人だと思える。どうなってるの……?
私は、ぐるぐると頭の中を過ぎってゆくいろいろな可能性を考えながら、タブを削除した。
深月目線の「死んだけど小説の更新を止めるわけにはいかない」も翌日投稿されます。
そっちもよろしくお願いします(*^^*)