第29話
45日目
俺は日の出前に起きると、集落の周辺を探索した。
炎魔猫たちはかなり疲労がたまっているようなので、俺一人でも出来ることはやってしまいたかった。
まず縄張りを主張するためのマーキングだ。出せる限り小便と大便を撒き散らしてやった。これを見られるのが恥ずかしいのもあって一人で出てきたのもあるが…
他にも定期的に木に体をこすりつけたり、下着に使っていた布を木に縛ったりして見た。多少の効果はあるだろう。
次に狩りだ。しばらく満足に食事を取れていないようだったから、これから俺のために働いてもらうのに、体力をつけてもらわなければだ。
大物が欲しいなと思い小川伝いに歩いているとさっそく発見した。一角猪だ。体長は1メートルちょっとで一角猪としては普通だが、ここら辺の獣では1番食べ応えがある。
俺は茂みの中で寝ている一角猪に近づくと、両手に魔力をこめ弓を引き絞る、狙いを定め矢を放った。
バスッ!!
「ぎゅぅあ。」
矢は一角猪の側頭部を貫通し、一撃で一角猪の命を奪っていた。
いい感じだ。狩りでも充分使える。矢は軽くて持ち運びが便利だし石や投槍を持ち歩くよりずっといい。
一角猪に近づき血抜きを始める。ナイフで首に走る血管を切りながら刺さっている矢を確認して見る。
鏃も、木の部分もぼろぼろになっていた。もう使い物にはならなさそうだ。
うん。前言撤回。弓矢はそんなほいほいは使えないな。矢作るのめんどいし。
帰り道に小川で水を飲んでいた兎や鼠を数匹仕留め、今日の狩りを終了する。
集落に帰るとみんな置き始め活動し始めていた。
俺が茂みから出て、獲物を見せると子供の炎魔猫たちが走りよってくる。
「今日はお腹いっぱい食べれるぞお前ら。」
「やったニャ」
「主様すごいニャ」
口々に褒めてくれる。やっぱ悪い気はしないね。
さらに驚くことに、子猫たち5匹全てのステータスが確認できた。
げんきんというか…飯の力を思い知らされた瞬間だった。
集落のみんなとロンで焼肉パーティを実施する。ひとしきり腹が膨れたところで、ロンと子供たちが遊んでるのを横目に、次にするべきことの準備だ。
昨日の話し合いで決めた今後の活動は
1、食糧の確保。これはそのまんまだが、今日の分はとりあえずOKだろう。
2、俺の存在のアピール、縄張りの主張。これも朝やったが、俺と炎魔猫で共に行動し周囲に知らしめなければいけない。最終目標は縄張りが被っている狼の群れを討伐することだ。
3、薬草の採取。冒険者の地図にも合ったが、炎魔猫が代々怪我したときに食べている草があるらしい、この辺にはあまり生えていないが、緑狼のテリトリー付近にたくさん生えているらしいので、それをとってくる。
4、炎魔猫の訓練装備の充実。炎魔猫たちの現在の装備は気の杖や動物の骨を鋭くしたもの、衣服は毛長山猫の毛から作る服という貧弱なものだった。よってそれを充実させる。訓練もしかりだ今まではニャファイヤの加護による力の底上げに頼ってばかりだったので、自ら鍛錬する習慣を付けさせる
炎魔猫は毛皮を着る習慣がなく、驚くことに毛長山猫と交渉して毛をもらい、それを編んで布をつくり衣服としていたのだ。毛長山猫となんとなくだが話せることにも驚きだが、布を作れるということにも超ビックリした。今度俺も服を作ってもらおう。
5、宴会。これはそのまんまだね。
余談だが昨日の話し合いの中で俺がはめられた理由がわかった。
ニャファイヤは生きているものしか食べないらしく(食べるところは誰も見たことはないのだが、恐らく魔力を吸収するのに生きているほうが良いとの事だ)、その生贄を用意するのが代々村長の役目らしい。ただ小物ばかり差し出していると、ニャファイヤの逆鱗に触れるため、本当にどうしようもない時は炎魔猫の中から1匹を選び差し出していたらしい。
俺が捕まったときも、もうそろそろ限界だったようで、長老は毛長山猫からの噂で、狡賢く凶暴なゴブリンがいるというのを聞き、生贄の確保に協力してもらおうと俺を村に呼んだらしい。狡賢くて凶暴なら呼んだらダメじゃんと俺は思ったけど、猿人犬との間に入ってくたし、なんとかなるだろうと長老は判断したんだとか。
まぁただ、当時の村長はとりあえず俺を生贄にすれば、今回は何とかなるからと、酒に体をしびれさす毒をもった。というわけだ。
話を聞いた後、長老からは猛烈に謝られたね。
俺としては炎魔猫とのつながりが出来たから嬉しいんだけど。
とりあえず最初にやることは薬草の採取だ。帰りに狩りも一緒にしていく予定。
5匹の雄のうち村長とステータスの高い2匹を連れて集落を後にする。今日はロンは子供達と留守番だ。
小川沿いに下流へと下っていく。かなり急いだこともあり昼前には冒険者と戦ったところを通り抜け、地図上で薬草と書いてる地点にたどり着いた。
所々木々が開け草原がある。しかし、草の種類が結構あり俺にはどれが薬草かわからなかった。すると、炎魔猫の1匹が何種類かの草をむしって持ってきた。
「これお腹痛くなる、これ痺れる、これ薬草ニャ。よくにてるから注意ニャ」
ん~~~~~~どれも同じようにしか見えないな…
ためしにちょっとづつかじってみた。
うん。口が痛いのと、ぴりぴりするのと、苦いのがある。味は違うみたいだ。俺は薬草採取の戦力にはなれなさそうだな。
村おさに草の見分けがつかない事を伝え、周囲の警戒プラス探索に向かった。
小一時間見回ったところ、狼の痕跡が多くあった。あまり長居をしないほうがよさそうだ。
炎魔猫達の所に戻ると、採取が調度終わったところだった。俺の背負子にもびっしり薬草が詰まっている。
「お前ら何食ってるんだ?」
「薬草ニャ。苦いけど、傷のなおりが早くなるニャ。主様も食べとかないと勿体無いニャ。」
「まじでか」
苦いから食べたくないなーと思っていると、1匹が薬草の束を持ってきた。仕方なく口に入れ咀嚼する。案の定苦い汁が出てきた。我慢して噛み砕き飲み込む。するとお腹に変な安心感というか、魔力が入ってくる感覚があった。
これは薬草と呼ばれてるのもうなずけるし、傷口に塗るのではなく食べる意味もわかるな。新しいアイテムを発見したぜ。そういえば毒草と痺れ草も何かに使えるんじゃね?
薬草の群生地を後にする前に炎魔猫にお願いして。二つの草もそれなりに摘んでもらった。
「それでは帰るニャ」
村長がそういった瞬間、風に乗って獣臭が強く漂ってきた。
「気をつけろ。狼かもしれない。」
4人で互いに背中をかばい合いながら身構える。すると南側の茂みから狼達が姿を現した。
緑狼ではなく通常種だったが、その数は15匹ほどいた。
クソ!!すんなり帰らせろよな。
「スゥゥ~~~~~~ッ!&%$▽~~~~~~~~~」
俺は大きく息を吸い込むと威嚇の咆哮を上げる。
狼たちは身構えこちらの様子を伺うように、一歩も動こうとしなかった。
「よし。ゆっくり後退だ。背中見せるんじゃないぞ。」
『ニャ』
フーーーーーー。
何事もなく小川の対岸までこれた。俺1匹なら簡単に逃げれるのだが、炎魔猫たちの実力がいまいちわからないので、結構緊張した。
その後は特に何事もなく、持てる範囲で狩りをして集落へ戻る。
集落につくと飯の用意がしてあった。調味料もなはずなのに結構いいにおいがする。これは期待できそうだ。
俺が広場に行くと長老が待っていた。
「どうだったニャ?」
「まぁ上々さ。」
「それはよかったニャ。食事を作っておいたから食べてニャ」
「ありがとう。なんか今ままでと違う臭いがするけど?」
「それはこの辺に生えている香草を炒ったり、乾燥させたりして使ってるからニャ。」
豚の香草焼きだな。
食べてみると口の中に食欲をそそる香りが広がった。結構いい。ただもうちょっと塩とかで一工夫できれば最高なんだけどな。まぁ贅沢はまだ言っちゃだめだ。いつか食べれるように努力しよう。
お互いに今日の成果を報告しあい食事会はお開きになった。ちなみにまたステータスを確認できる炎魔猫が増えた。順調に俺の部下が増えてるね。




