第19話
31日目昼
家に向かって歩いていると、思いがけない出会いがあった。
炎魔猫だ。
俺がやぶをかき分けちょっとした広場に出ると、そこに茶色い3匹の炎魔猫がいた。炎魔猫達は、つい先ほどし止めたのだろう、まだ血の乾いてない一角猪を運んでいるとこだった。俺に気がついた炎魔猫が2匹一角猪を置くと、骨のナイフを構え威嚇してきた。
おお!!やる気満々だな。でも俺はそんなつもりはないんだよな…仲良くなりたいんだけど。
「ちょっとまってくれ、戦う気はないよ。」
俺は念のため荷物を降ろし身軽になると、武器を一つずつ地面に置きながら声をかけた。
後ろで静観していた炎魔猫が、いきり立つ2匹を制しながら前に出てきた。毛が少し白くなっており1番年配に見える、3匹の中ではリーダーなのだろう。
「待て。この前はどうもニャ」
「ハッ?」
「危ないところを助けていただき、ありがとうニャ」
あ~~~こいつこの前猿人犬と最後まで戦ってた奴か。猫の顔なんて簡単に区別できないよ。てか俺置いて逃げたくせに感謝の気持ちとかあったのか。
俺の表情で、何を考えているのか読み取ったのか、続けて話してきた。
「前は先に逃げて、すまニャいニャ。お詫びするので、ついてきて欲しいニャ」
「どこに行く気だ。」
「村に行くニャ。良かったら猪の肉を食べて欲しいニャ」
どうしようか?なんか予想よりだいぶ友好的でちょっとビックリ…猪の肉はそこまで魅力じゃないしついていってみるかな?でも相手の本拠地にいくのはな、罠だったら困るし。なんかあったら、せっかくのアイテムをおいて逃げなきゃいけなくなるし…こまっちゃうぜ。
「おい、お前先に帰って歓迎の準備をするニャ」
「ニャ」
そういうと若いそうな炎魔猫の1匹が走去っていた。リーダーともう1匹で一角猪を担ぎなおす。
「出発するニャ。すぐそこだニャ」
「わかった。厄介になるよ。」
まぁなるようになるべ。てかニャアニャアうるせぇな。こいつらなりの敬語かと思ったけど、常にこのしゃべり方なのかよ。
俺も荷物を背負うと炎魔猫の後を追う。
炎魔猫達の集落は本当にすぐ近くで、30分も歩くとついた。そこは、洞窟を半円に囲むように20件ほどの家があるこじんまりとした集落だ。まぁ家といっても、木の枝や葉っぱをうまい具合に重ねただけの小屋だが。集落には30匹ほどの閻魔猫がいた。小屋一件に2~3人は入れそうだから、この群れは40~60人くらいと推定できる。まだ狩から戻っていない者がいるのだろう。
村を観察していると老炎魔猫に声をかけられた。
「こちらへ来てニャん。宴の準備が出来ているニャん」
言われるがままに、集落の中心にある広場に腰を下ろすと、すぐに果物などが葉っぱに乗せられ運ばれてきた。目の前では焚き火が起きており。ここで猪を焼くのだという。
炎を見つめながら果物をつまんでいると、老炎魔猫が瓶を持ってやってきた。
「この村で作ってるマタタビ酒ニャ。どうぞ飲んでニャ。」
お~~~~。酒だよ。こいつら意外とすげ-な。いやーついて来てよかった。
「これはこれはありがとうございます。さっそくいただいてもいいですかな?」
「どうぞニャ」
もう待ちきれなかった俺は、手酌で木の器に注ぐと、グイっといった。
かれ~~~~~。
これ度数なんぼよ?てか、こんな森の中でなんでこんな酒が有るんだ?
どぶろく的なものかと思い口をつけた俺は、思いっきり咳き込んでしまった。
「大丈夫にゃ?口に合わなかったニャ?」
「いや、大丈夫だ。久しぶりに飲んだからちょっとむせただけだ。もう一杯もらえるかな?」
「どんどん飲んでニャ」
老炎魔猫はそういうと器に酒をついでくれた。
うん。ちびちびやる分には問題ないな。結構おいしいかも。
「うん。うまい。」
「それは良かったニャ」
そういうと老炎魔猫は俺の横に座ると、自らの器にも酒をそそぎ飲み始めた。
「もうすぐ猪が来るニャ」
「お~~~楽しみだな。爺さんはこののボスなのかい?」
「違うニャ。前のぼすニャ。今の首長はもっと強くて若いニャ」
「負けたのか?」
「ん~~~~違うニャ。首長を決めるのはニャファイや様ニャ」
「ニャファイヤ様?」
「神様ニャ。そこの洞窟の中にいるニャ」
「いる?生きてるのか?」
「御神体がおいてあるニャ。たまに御告げを下さるニャ」
ふ~ん。この集落の炎魔猫が崇める神か。どのくらい力があるんだべ?
「ニャファイヤ様は強いのか?」
「強いはずニャ。我々に炎の力をくれるニャ。」
「炎の力?」
「ニャファイヤ様がいるから皆炎を使えるニャ。その力で、ニャファイヤ様に獲物を献上するニャ」
「ニャファイヤ様は洞窟から出てこないのか?」
「そうニャ、洞窟から出たら力が弱まるニャ」
この洞窟は意外と神聖なものなのかな?てか猪俺が食っていいのか?
「猪は俺が食べていいのか?」
「大丈夫ニャ。ニャファイヤ様は生きてるものしか食べないニャ。今首長達がとりに行ってるニャ」
詳しく話を聞いたところ、神様への貢物を用意するのが首長の仕事らしく、この爺さんはそれが難しくなってきたので交代したらしい。
「ここには長く住んでるのか?」
「違うニャ。最近ニャ」
あれ?なんか予想と違うな。一体洞窟の中には何がいるんだべか?
いろいろな疑問はあったが、調度猪の準備が出来たので、そこからは集落を挙げての宴会となった。爺さんや他の若い猫たちと談笑しなが酒を楽しむ。
だいぶ酔っ払って、気がつくと日も落ちあたりは暗くなっていた。
集落の一角が騒がしい。どうやら首長が帰ってきたらしい。
「ちょっと失礼するニャ」
そういうと、爺さんと両脇にいた炎魔猫達が帰ってきた一団の方へ向かう。俺のことを話しに行くのだろう。
しばらくすると、俺の前に体が大きく、明らかに他とは一線をかす炎魔猫がやってきた。首長なのだろう。その目は猜疑心が強そうで、常に先を見通していそうな感じがした。
「先日はわが村のものを助けてくれてありがとうニャ」
こいつもニャかよ…別に悪くはないんだけど、威厳ねーな
「今日はゆっくりして欲しいニャ」
「そうさせて貰います。首長より先に食事を頂き申し訳ない」
「気にするニャ。我々も帰りが遅いニャ。それでは失礼するなニャ」
「ども」
首長と爺さん達は話があるらしく、一際大きい家に入っていった。
挨拶も終わったので、遠慮なく肉と酒を楽しませてもらう。今度いつ酒飲めるかわからないしな。
爺さん達がいなくなったら変りに子炎魔猫たちがやってきた。好奇心旺盛に俺の体を触ったり匂いをかいだりしだす。全然遠慮がない。俺は客人だぞ。でも可愛いから許そう。
しばらく子炎魔猫達と戯れていると、1匹の大人が、今までとは違う酒瓶を持ってきた。
「首長の許しが出たのでこれも飲んで欲しいニャ。この村一番の酒ニャ」
「おお~ありがとう。あの首長無愛想なくせして気が利くな。」
俺は上機嫌で酒をあおる。
ぐっと飲み干すと、体が一気にくらくらしてきた。
あれ?俺まだそんなに酔っ払ってないはずなのに。あ~~なんかすごい眠くなってきたな。やべーロンごめん今日はもう帰れません・・・・どんどん意識がなくなってくな




