第17話
30日目昼
俺は小男の武装を解除すると、顔に水をかけ軽く叩いてみた。
「ン、ア~~~。ヒッ!!ゴブリン」
小さく悲鳴を上げたが今の状況を理解したのだろう、口をパクパクさせながら、絶望の色を目に浮かべた。
「イマ、コロサナイ、キクコタエロ」
俺が片言で話しかけると、男は物凄い勢いで首を上下に動かし始めた。
「オマエ、ダレダ」
「…#'ヾ%кニンゲン」
「ナニシテタ」
「タビ…#Р=ЭБ…ツクル」
クソッ、わからない言葉が多すぎる。全然話がすすまねぇ。
わからないなりに、身振り手振りもくわえ何とか素性と目的くらいは聞き出せた。この2人組みは当然のごとく人間で、冒険者と呼ばれる仕事をしているらしい。今回はアイテムの収集がてら、この森の地図を作りに来たらしい。
こんな簡単なことを聞くのに物凄い時間がかかってしまった。でも、そのおかげでだいぶ新しい言葉を覚えたし、なめらかにしゃべれるようになった。
次に小男の荷物を漁ってみる。ザックの中にあったのは、書きかけの地図、ビスケットみたいな携行食、水入りの皮袋約1リットル、裁縫道具、包帯などの医薬品、筆記用具、タオル、下着、ロープ約10m、手鏡みたいなもの、金属製のコイン。
一つ一つ説明させていくのだが、手鏡のとこでつまずいた。説明に難しい単語が増えなかなか意味がわからない。痺れを切らしたのか小男が実演するといってきた。しかし、縄を解く気にはなれなかったので、使い方を説明させた。
「マナヲツカッテミロ」
まな?魔力のことか?
俺は鏡を持つと右手に魔力をこめてみた。
・・・何も起きない。
「ゴブリンハマナガナイ」
小男がつぶやく。
いやいやいや俺魔法使えるし。
小男の目の前で左手に炎をともしてみる。
「…………。」
物凄く驚いていた。この世の終わりなんじゃないかって顔だ。普通のゴブリンは魔法を使えないのかな?
「カガミニマナヲコメロ」
俺は再び鏡を見ると、右手の延長だと思って、魔力をこめていく。
すると鏡の反対側から赤い光が出てきて、地面を照らす。
なんじゃこりゃ?
俺は驚きながらも、鏡に眼をやると、突然頭の中に文字が浮かんできた。
森の柔らかい土
日本語?まぁこの際何でもいいんだけど。赤い光で移したところを教えてくれてるのかな
俺は次に木を照らしてみた。
ヒシの木、実は食用になる。
おお~図鑑みたいだな。すげーよ。次この男を見てみるかな
男に光を当ててみる。すると今までとは桁違いの情報が頭に流れ込んできた。
ロチャック 鏡図鑑の元所有者
人間 28歳 男
東ギルドCランク冒険者
新進気鋭の冒険者 短剣士 元泥棒
レベル 31
スキル
短剣技 12Lv
投ナイフ 15Lv
格闘術 3Lv
抜き足 50Lv
鍵解除 31Lv
罠作成 11Lv
鑑定 5Lv
風魔法 10Lv
火魔法 2Lv
なんだこれは。ゲームの世界じゃないんだからレベルとか、スキルってなによ?それとも俺はゲームの世界に入り込んでしまったとかか、それはそれで妙に納得できるけど。そもそも俺の存在自体異常だしな。この世界で自分の常識にとらわれちゃだめだ。何があっても驚かないようにしよう。てかこいつロチャックって名前なんだな。
小男に色々聞きたいこともあったが先に自分に光を当ててみた。
鏡図鑑の所有者
ゴブリン 幼生 オス
森に住むゴブリン
獰猛で狡猾なゴブリン しつこい狩人
レベル27
ユニークスキル
獰猛なゴブリンの咆哮 自己分析 主将 適材適所 暗視
スキル
隠密 30Lv
投擲 31Lv
槍術 8Lv
剣技 31Lv
棍棒術 25Lv
罠猟 10Lv
魔力操作 31Lv
炎熱魔法 1Lv
水冷魔法 1Lv
道具製作 5Lv
統率 15Lv
炎熱耐性 35Lv
水冷耐性 31Lv
スキル多!!一生懸命生きてきた成果だな。超嬉しい、俺もしかして超才能有るんじゃね?
まぁ調子に乗るのはここまでにしてちょっと冷静にステータスを見てみよう。まず上から見ていこう、小男と違い名前がないのはわかる。図鑑鏡の所有者は恐らく最後に魔力をこめた奴なのだろう。次の段、ゴブリンのオスは予想どうりだけど、俺は年齢じゃなくて幼生になっている、誕生日がわからないからか?まあいい本題は次からだ、3段目と4段目の違いがわからん、どっちも職業的なものだと思うのだがど、ういうわけ方なんだ?ロチャックは4段目に2つあるし。5段目のレベルも何に基づいたレベルなんだろうか?
最後はユニークスキルとスキルについてだ。ユニークスキルはそのままだろう、レベルとかもないし、俺が独自に身につけている物なのだろう。
スキルについて、種類は多いが似たものが結構あるな。隠密術と抜き足、火魔法と炎熱魔法、投擲と投ナイフ、剣技と短剣技とかだ。さらに術と技で何が違うのか、投擲には術がつかなくて槍とか剣には術がつくのはなんでなんだ?まぁ全部ロチャックに聞いてみよう。
こうして自分の能力を見てみると、普段の生活とすごい密接な関係だということに気がつく。さらに、前世の能力や特性も相当かかわってるな。ユニークスキルの主将とかスキルの炎熱耐性、水冷耐性は野球部のキャプテンやってたり、消防士として北海道に住んでた恩恵だろう。使える魔法が水系と炎系なのも消防士だったことが影響してそうだ。
「オイ、ロチャック」
「ヘイ、…ナンデショウカ」
俺が生きなり名前で呼ぶと、ひどく驚き、また落胆したような声で返事をした。まぁ相手に自分の情報を知られるのは死活問題だし、気持ちはわかるが。
「ステータスヲオシエテクレ」
「ハイナニカラデ…」
「ハジメハシゴトカラダ」
「…ワカリマシタ。エ~……」
以下わかったことをまとめて見る。
まず職業らしきものが2段に別れ複数あることについて、上の物は一般的にも職業と呼ばれ、名目上の地位をあらわし、特に能力には関係ないらしく、職業補正があったりはしないということだ。
下の段のは、二つ名とか加護、名声などと呼ばれているらしく、まわりからの評価を表している。しかし、ただの評価と侮ってはいけない、この世界では人の思考力が力になるらしく、周囲の生物から受ける評価がそのまま力になっていくらしい。解明はされてはないが、尊敬や賞賛、畏怖や侮蔑、恐怖の念に微弱な魔力が乗り対象物に注ぎ込まれると考えられているとの事だ。さらにこの世界には神や精霊なども存在しているらしく、それらからの評価入っておりかなりの影響力があるそうだ。
ようはより魔力の高いものからの評価を受ければ、効率よく力が増えていくというわけだ。
一例では宗教の教祖で神にまで上り詰めた例もあるらしい。
レベルもこの二つ名に付ずいしているものらしく、より上位の二つ名を得ると、レベルが下がるらしい。しかし1に戻るかと言われると必ずしもそうではないらしい。
しかし恐ろしいシステムだな。神を自ら作ることも出来るのか…まぁそれは極端な例としても、王様や貴族など、生まれながらにして周囲から注目されてる奴は、かなりのアドバンテージがあるってことだ。
いつまでも一人でいるのは、あまりよろしくない気がしてきたぜ。強力な仲間や、俺に心酔してるような部下が欲しくなってきた。
俺の二つ名は森の精霊や、獲物になって来た生物からのものなのだろう。意外に恐れられてるんだな。
次はユニークスキルについて、これはまぁ予想どうり名前のままだ。ただ世界に一つだけというわけではなく、レベルのつかないものがこれに当るらしい。種族の大半の物がもっているスキルもあり、暗視がそれに当るようだ。
スキルは能力に補正がかかるとかではなく、純粋にその個体の技術レベルをあらわしているようだ。
にたスキルが多くあるのは、上位、下位、派生スキルが多く存在し、今回だと投擲と投ナイフ、剣術と剣技などが該当する。
ただこれもかなり複雑で、術が戦いの中で取得するもの、技がかたなどの稽古で取得するもので、基本的には術が上位スキルといわれているが、剣術1Lvと剣技50Lvが戦うと100%剣技の方が勝つらしい。さらに個体としての身体能力はステータスに乗らないので、スキルが上位だからといって優位とは限らない。
何だよこれ、ゲームみたいでかっこいいと思ったけど、ほんとにかっこいいだけだな。実戦では参考程度にしないと駄目だ。ステータスを鵜呑みにしたら痛い目にあいそうだ。
「ツギハマホウオシエロ」
「カンタンデス。ドウスルカイメージスレバデキマス」
「イメージ?」
「グタイテキニ、マナヲ、ドウシタイカデス」「アト、モトモトアルモノヲ、ソウサスルカ」
「ジュモンハ?」
「セイレイト、ケイヤクシナイト、ツカエナイ」
ふ~~んなるほどね、この世界ではやはり神や、精霊の力が強いのか。あと魔法は具体的にか…操作も出来るって言ったよな。とりあえず試してみるか。
魔法のイメージってなんだ?ファイヤーボールか
手の上に球体を作るイメージで集中する。すると、なんとなくだが何もない空間に質量が感じられてきた。
良い感じだな。よし!もえろ
ボッ!!
一瞬火の玉が出来たがすぐ消えてしまう。
もう一回、今度はより高濃度で、長く燃えるようにイメージする。
すると手の上に火の玉が出来た。腕をふり投げてみる。
投擲スキルも手伝ってか、かなりのスピードで飛んでいき、木にあたって周囲に炎を飛び散らした。
ヤバ!!森が火事になってしう…
俺は草や木の枝に燃え移った火に集中すると、手のひらに集まってくるように念じた。
完璧だ。これで俺も魔法使いじゃ!!うひょう~~
小躍りしたいとこだったけど、目の前に人もいたので自重しとく。しかし疲れた。魔法を使うとほんと腹が減るし疲れる。
俺は水を飲み大男が持っていた干し肉を食べると、ロチャックの前に腰を落とした。
グ~~~~~
「オマエもクウカ?」
「はい。デキレバ」
俺が肉を与え、皮袋を口まで持っていくと、むさぼるように租借し飲み込んでいった。
「まだ、キクコトアル、ユックリ食え」
ロチャックは返事をするのも惜しいのか首をたてに振りながら、肉を食べ続ける。
「コンドは、あいてむとコノセカイにツイテダ」
「わかりました」
だいぶスムーズに会話できるようになったが、話す量も膨大だし、知らない単語が多く出てきたので、話が終わるころには日が暮れていた。そのおかげでだいぶ言葉が話せるようになって来たのだが。
そろそろ寝るかな?ロンは食べ物たくさん置いてきたし一晩くらい大丈夫だろ。
俺が寝ようとしたのを察したのか、ロチャックが話しかけてきた。
「寝るときくらい、木から下ろしてください。」
まぁずっと素直に話してくれたしまぁいいかな?
俺はロチャックを解放してやることにした。逃げられたら困るので、足はロープでつないどくが。
木に近づき、胴体と手を結んでいた紐を解いてやる。
紐を解ききった瞬間、みぞおちに衝撃を受けた。
クソッ裏切りやがったか。
後方にとび距離をとる。ロチャックを見ると、手に剣歯虎のナイフが握られていた。しかも血がついている。違和感を感じ、わき腹に目をやると、ざっくりやられていた。
いつの間に?油断しすぎた…
後悔しても今さら遅い、やるしかないな。幸い足の縄は解いてないし。
俺がファイヤーボールを放つと、両足で飛び跳ねながらかわして行く。それを見てすぐさま距離をつめた。足を払いマチェットを頭に叩きつける。
ぬちゃ。
いやな音がして頭が潰れた。
は~~やっちまったな。でも裏切ったこいつが悪い。おおかたゴブリンなんか見下してて、まともな交渉など出来ないと思っていたのだろう。
今日一日で人間を2人殺ったが、思いのほか罪悪感がない。俺はもう人間じゃないからなのか、明確な殺意を向けてくる相手だったからなのか、わからないがこの世界で生きていくには良い傾向だ。いちいち殺人で気に病んでたらきりがない。
もうこの考えが前世から隔絶されているが、ただ、仕事がら死体にはなれてるし、命がけのこともあったから、人に死にはもともと耐性があったんだべ。
無理やりそう言い聞かせ、自分を納得させる。
もういい今日は寝よう。
草がないところに石を集め簡易的なかまどを作ると、焚き火をし眠りにつく




