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勿忘草  作者: 紫雨
第一章 -別れ-
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青-07- 守心故逃


 次の日、俺は何事もなかったかのように、冬瑚に電話をかける。

 受話器の向こうの彼女の声が、どこか嬉しそうで。

 そんな声色に少し安堵感を覚え、つられて俺も嬉しくなった。


 

「………」

「………」


 

 しかし、昨日の感情が蘇る。沈黙が、生まれる。

 どうしようもない不安が、心の奥底で渦巻いているのがわかって気持ちが悪かった。


 会いたいと思ってるのは、声をききたいと思ってるのは、俺だけなのだろうか。

 ―――違う、そんなことないと、言い切れないのは近くに君がいないから。

 わからない。遠い程、失われていく自信。


 聞けばいいのに、情けないことに、怖くて聞けない。


(言え、言うんだ―――)

 それでも己を奮い立たせて、尋ねようと口を開く。


「「昨日」」


 二人の声が、重なった。


「「…………」」


「………な、何?」

「いや、たいしたことじゃないから、先に言えよ」


 振り絞った勇気は、ちょっとしたことで簡単に消えていった。

 だから後回し、なんて男らしくないんだろう。


「えっと……、昨日夜さ、私クラスの子たちと焼肉行ってて、留守電して行くの忘れてて………電話、くれたりした?」


(…遊んでた、のか)


 なんて勝手なんだろう。

 馬鹿みたいだ。俺は、声が聴きたくてたまらなかったというのに。それと同じ気持ちでなかった彼女に、何ともいえない感情を抱く自分がいた。


「―――いや、…してないよ」


 だから、こんなことを言ってしまったのだろうか。

 つまらないプライドを守るための強がりが、口にする言葉がどれほど彼女を傷付けるかなんて、その時の俺にはわかっていなかった。


「そ、か……」


 明らかに、落胆の色がみえる彼女の声に、後悔をしてもう遅い。


(ああ、最低だ)


 素直に、電話したと、声が聴きたかったと言えばいいのに。

 そうさせないのはつまらないプライドを守りたいからだ。

 我が儘になりきれたら、どんなに楽だったろう。


 そうすれば、何かが変わったかもしれない。

 少なくとも、こんなことにはならなかっただろう。


 情けない俺の口は、まだ止まらない。止める術を、きっと俺は知らない。



「――あのさ」


 重たい空気を断ち切ろうと、開いた口だったのに、余計なことを続けて口走る。


「――――また、しばらく忙しくなるんだ。3ヶ月くらい、連絡できないと思う」


 忙しくなるのは本当だった。

 でもこれは言い訳だ。こう言って俺は遠ざけた。彼女に連絡することを遠ざけた。


 またこんな思いをするくらいならと、声を聴くよりも、強がることを選んだのだ。


 こんなところだけ、我が儘になったって仕方ないのに。






   *   *






「智洋」

 

 ガチャリと受話器を置いたところで、母親に声をかけられる。

 

「あなた少し、電話しすぎじゃない?高校のテストも近いでしょ。…しばらく電話、やめなさい。」

「………わかったよ。」


 ああ、これで本当にしばらく電話なんかできやしない。

 そう思って、少しだけほっとした自分がいた。




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