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勿忘草  作者: 紫雨
番外編
21/21

誓い


「え、じゃあしばらくこっちにいるの?」

「帰って来るなって、何のために数日分の荷物持たせたんだって、桃伽に怒られた」


 智洋の持つ、スーツケースとボストンバックに視線を落とす。そういえば、桃ちゃんに騙されてここに来たにしては、大きな荷物だなあとは思っていたけれど。


「桃伽の荷物だと思ってたのに、知らないうちに俺の服とかに変わってた」

「……桃ちゃん、さすがね」


 桃伽は、智洋を此処に連れてくるためにあらゆる策を練ってくれていたのだろう。彼女には、感謝してもしきれない。改めて、何かお礼をしなくてはと心に決める。



「…ホテル、探さなきゃだな」

「あ、私ホテルとってあるよ」

「………は?」


 実家に桃伽を迎える予定だったのだが、急遽親戚たちが遊びに来ることになってしまい、ゆっくり彼女と二人で泊まろうと、宿を確保しておいたのだ。私も一泊分の荷物を持ってきており、翌日からは大学の近くで下宿しているアパートに泊まってもらうつもりだった。


「とりあえず、荷物置きに行かない?動きづらいし」

「そうだな、行くか。近い?ここから」

「えっとね――」



 地下鉄で4駅ほど離れたホテルにチェックインをして荷物を置き、近くのイタリアンレストランで夕食をとった。

 三年分の近況は、話しても話しても、時間が足りないと感じてしまった。

 それに何より、離れたくないって心が叫ぶ。でもそんなこと言えない。私の我儘だし、智洋はそのつもりじゃなかったら恥ずかしいし。


 離れていた長い長い三年間は、私をより一層、臆病にしてしまったようだ。

 ホテルの部屋に戻り自分の荷物を持ち上げて、そろそろと口を開く。



「…そろそろ、帰るね私」

「え、どこに」

「さっき話した自分のアパート。此処から特急使えば一時間もかからないので…」

「今から?遅いよ。ここ泊まってけばいいだろ、二人分の金払ってるんだし」

「……いいの?」

「いいもなにも、俺はそのつもりだったんだけど」

「そ、そうなんだ」


 びっくりした、そんな風に思っててくれてたんだ。


「別に、そんな警戒しなくても、手出したりしないから」

「…へ、…っええ?」

「俺が、離れたくないだけだよ…帰るとか、言うな」


 警戒とか、そういうことは何も考えていなかったのだけれども。そっぽを向いたままであるが、こっちが赤くなるような言葉を彼は言った。

 それにしても、離れていた間に智洋は素直になるという技でも身につけたのだろうか。昔では想像できないようなセリフが彼の口から降りてきたので、私は驚いていた。


 そして同じ気持ちだというのに、それを口にできない自分の情けなさに悲しくなる。

 それじゃあいつまで経っても成長しないし、また同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。あの別れだって、お互いもっとちゃんと、気持ちを言い合っていたら、違った未来があったのかもと、何度後悔したか知れない。そう、痛いほど思っていたはずなのに。




「…冬瑚?」


 気づいたら私は、彼の背中に抱きついていた。大きくて少し熱い背中に、ぐりぐりとおでこを擦りつける。


「ちょ、それ、くすぐったい…」

「ふふ」

「あんまくっついてると、襲うよ?」

「…いいよ」


 それでもいいと、思ったのは本当。

 今日はもう離れたくないし、触れ合っていたい。その手で触れて、ずっと抱き合っていたいと、そう思った。


 智洋の、動きが止まる。


「………手、出さないって言ったばっかりなんだけど」

「うん、わかってる」

「いや、でもさ…」

「触って、くれないの?」



 知らねえぞ、と彼は呟いて、私を正面から抱きすくめてからキスをする。初めは触れるだけだったそれは、徐々に深いものへと変わっていく。


 そのまま後ろにあったベッドに二人して倒れこんだ。

 一度離れた唇がまた重なって、それを何度も繰り返す。

 私に体重をかけまいと頭の横に置かれた腕をつたって、彼の首に両腕を回す。

 くっつきたいのだと意志を伝えれば、遠慮がちに体が重なってきた。



 ぴったりとくっついたおかげで伝わる鼓動に、より一層ドキドキする。

 再びキスが深くなっていく。

 熱くて、溶けそうだ。




 汗が額を伝う。

 お互いの息が上がっていく中で、時折離れていってしまう背中をぎゅっと引き寄せる。

 離れないで離れないで、ずっとそばにいて。そんな言葉たちを、声にできていたかどうかはよくわからない。




「――誓うよ」


 頭を優しく抱き寄せられて、耳元で智洋が囁く。


「離れたってここは、心は、もうずっと、そばにいるから」



 その言葉に、涙がこぼれた。

 応える代わりに、もう一度ぎゅうと、彼の背中を抱きしめる。

 熱に浮かされながら、遠くなっていく意識の片隅で、「あいしてる」と、愛しい声が聞こえた気がした。





(おわり)

2015.03.25

こちらに投稿するにあたり、本編をすべて手直ししました。

そのときにこのお話ができました。なんとなく当時から、思い描いてはいたのですが、やっとしっかり形に。

もう一つ、桃伽の番外編があるのですが、別のお話の[七色☆サンタクロース]の桃色に収録しています。こちらにもってくるのは、なんだか違和感があったので…。興味のある方は、よろしければ足を運んでみてください。

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