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勿忘草  作者: 紫雨
第三章 -出逢い-
20/21

白-20- 再逢共歩


 もしこの先、どこかで会うことがあっても、笑顔で手を振って、久し振り。って言うの。

 そう、思ってたのに。







「――え、桃ちゃん来ないの?」


 南の町から列車でやってくる桃伽を迎えるために、私はホームで彼女を待っていた。

 そんな時に一本の電話。来れなくなったと桃伽は言う。


『うん、ちょっとパパの仕事手伝わなきゃいけなくなって。本当ごめんね。でも、あたしの代わりの人、ちゃんと行くから。』

「代わり?え、どういう―――」

『すぐ、わかるよ。冬瑚。……じゃあまたね!』


 そう言って、桃伽は電話を切った。

 彼女の言葉は、いつしか彼女と想い人の話をしていた時の、絶対に会えるよ大丈夫だよと、言ってくれたときの声色と似ていた。


 彼女が乗っているはずの列車はもう到着していた。

 発車しようとする列車を横目に、私はどうしてか、その場で後ろを振り返った。

 視線の先にいるはずのない彼が、こちらを見つめて立っているのが見えた。




「――――とう、こ」


(――――え………?)



 人混みの中、ずっと向こうにいる彼が、そう呼んだ。

 呼ばれたのが、聞こえた。



「……………ちひろ……?」



 応えるように、確かめるように。私も彼の名前を呼ぶ。


 これは、夢?


 自然と足が動きだす。たくさんのすれ違う人たちを掻き分けて、彼の元へ、まっすぐと。


 私は彼の胸へ思い切り飛び込んだ。

 そして彼もしっかりと受け止めてくれる。


 ぎゅ、と抱きしめられる。苦しいくらいの抱擁も、今は幸せ以外の何物でもなくて。

 零れ出す涙を拭う暇もないくらいに、私もぎゅうと抱きしめ返す。

 もう二度と、離れないくらい強く。


 私の顔を覗き込むように、そっと緩んだ腕の中で、私は彼を見上げた。



「……………おかえり!」



 ずっと、逢いたかった。

 そう言ったら彼は微笑んで、そっと、唇が触れた。


 その温もりを確かめるように、私はゆっくりと目を閉じた。







   *   *







「桃伽に……礼言わなきゃな。」

「…そうだね。電話、してみよっか。」


 とりあえず私の自宅へ向かう帰り道に、桃伽に電話をかけることにした。呼び出し音の聞こえる携帯電話を耳に当てたまま、智洋に話しかける。


「…いとこ、だったんだね。智洋と桃ちゃん。どうりで少し、似てたんだ。」

「俺もびっくりした。こっちでできた友達って、冬瑚のことだったんだな。」

「うん―――あ、もしもし桃ちゃん?」


 電話から桃伽の声が聞こえてくる。


『冬瑚!ちゃんと……会えた?』

「うん―――桃ちゃんのおかげ、ありがとう。」

『よかったあ…!』

「桃ちゃん、それに…私…。」


 桃伽の想い人が智洋のことだということも、分かってしまった。

 あの時、もう諦めると寂しそうに言った彼女の心を理解してあげられなくて、呑気に聞いていた私はなんて馬鹿だったんだろう。


『謝らないで。ていうか、謝るのはあたしの方――、知ってて、黙ってたの。』

「ううん、桃ちゃん全然悪くない。本当に……ありがとう。」


 涙が、また一粒零れた。

 今日はどうしてこんなに涙が出るんだろう。

 これまでずっとせき止めていた分、一度溢れ出したら零れるのは簡単なようだ。


 トントン、と智洋が私の肩を叩いた。“代わって”の合図だ。

 私は携帯を彼に手渡した。


「桃伽―――、俺。ありがとうな。…うん、うん……ああ、分かってる。」


 桃伽が向こうで何を言っているのか、聞こえなかったけれど、きっと同じようなこと言ってだろうことは予想がついた。彼女は優しいから。




「――――は…?え、なんだよそれ。」

「……?」


 しばらくして、彼の話す口調が変わった。


「いや、だって―――おーい…………………」

「何、どしたの?」

「切れた」

「え?」

「兄貴が、帰ってきたって。だからもう、帰ってこなくていいって。」

「………ええ?」


 失踪したはずの、智洋のお兄さんが突然の帰還。

 それがそもそもの、智洋がこの町から旅立った原因であったのに。



 ということは、つまり?


「兄貴が継ぐって…」


 病院、と、小さな溜息を彼はついた。


「…智洋、それでいいの?」

「いや、うーん…展開早すぎてよくわかんねえや。まあ、家の病院じゃなくても、医者はやれるし」

「そうだけど…」

「そんな、心配そうな顔すんな、いいんだって。」


 私の不安が伝わったのか、なだめるように頭を撫でられる。


「――冬瑚」

「うん?」


 私の頭に置かれていた手は離れ、彼は立ち止った。そしてまっすぐに、私を見る。

 その瞳に吸い込まれそうになって、いつかのことを、思い出して、また少し涙が出そうになる。



「あの時は本当に悪かった。」

「…」

「でも忘れられなかった。そんなことできやしなかった。冬瑚が大事で、特別で、ずっとそばにいて欲しいと思ってる。」

「……うん」

「もう一度、やり直して、もらえませんか。」


 智洋の瞳が、心細そうに小さく揺れたのが見えた。



 離れて、わかったの。言葉がどれだけ大切か。

 そしてそれ以上に、こうやって向き合って、気持ちを伝えあうことがどれだけ大切かってこと。


 ずっと、変わらなかったこと。

 うまく伝えられなかったこと。


 もう隠さないで、貴方に届けたい。



「私も、ずっと…、変わらなかったよ。智洋のことが、だいすきなの」


 言い終わったら恥ずかしさがやってきて、俯きながら視界に入った彼の手をぎゅ、と握った。

 そうしたら、ぎゅ、と握り返される。たったそれだけに、幸せを感じるのは私だけ?

 見上げると、彼は頬を赤く染めて、照れたように笑っていた。

 それを見て、同じくらい真っ赤な私も笑った。



 今度こそ絶対に、離さないように。





(おわり)

2009.09.19

2015.03.22(加筆修正)

一話が短いかもしれませんが、20話構成は私の中では最長作です。3人の視点がコロコロ変わるのも、わかりづらくあったかと思います、ここまでついてきてくださってありがとうございました。

番外編が少しあります。良ければおつきあい下さればと思います。


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