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勿忘草  作者: 紫雨
第一章 -別れ-
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青-02- 再次夢想


 幼い頃の俺の夢は、医者の親父の跡を継ぐことだった。


 青山家は代々、小さな町医者をやっていた。

 評判もよく、大学病院から声がかかることもしばしばだった。

 俺は青山家の次男で、兄との二人兄弟だった。その兄とよく、書斎の医学書を絵本代わりに読んだりしていた。


 だけど俺が5歳の時、両親の間で離婚の話が生じ、俺は母親の実家のある北へ。

 兄は南に残り、親父の跡を継ぐことになった。俺が学校から帰ってきたら、もう決まっていた話だった。


 その頃母はイライラしていて、幼い俺が自分の夢を、我儘を話すなんてことはできなかった。



 そして、北の町で、冬瑚に出会った。


 彼女は大切な存在になった。

 ずっと一緒に居たいと、そう思っていた。

 

 けれど、突然の兄の失踪と、親父の病気の進行、そして両親の再婚の話が一気に起こり、俺が親父の跡を継ぐという話にまで進んでいた。

 めちゃくちゃな話だが、一度諦めたあの夢が、幼い頃の感情が、水の様に流れ込んできたのを感じた。


 “やってみたい”と、不思議とそう思えたんだ。


 ただ一つ、心に引っかかったもの。「親父の跡を継ぐ」ことは、「この町を出る」ということだった。

 つまりは、冬瑚と離れる――そういうことだ。




「…電話、する」

「うん」

「――手紙も書くよ。」

「うん、私も書くね。」

「…………、」

「…私のこと、忘れないでね?」

「――馬鹿、忘れるわけ、ねぇだろ」

「…うん!応援してるから―――がんばって!」


 ポン、と彼女に背中を軽く押されて、つんのめりながら俺は数歩進んだ。

 そして南の、親父がいる町へ続く列車がすぐにやってきて、俺はおふくろとそれに乗り込んだ。

 俺はもともと口下手な人間だったけれど、見送りに来てくれた彼女に気の利いたことは何も言ってやれないまま、電車は動き出す。

 

 彼女が笑顔で手を振ってくれる。俺も振り返した。



 ずっと一緒だった彼女と、離れることに不安を感じなかったと言ったら嘘になるけれど、その時はなんだか大丈夫な気がしていた。

 

 電話だって出来るのだから、声だってきけるのだから。

 そんな風に、考えていた。






   *   *






「じゃあこれに、とりあえず目を通しておけ」


 父親との再会の挨拶なんてものもないままに、どん、と効果音が聞こえて来そうな程の大量の書物や書類の束が、俺の目の前に現れた。


「………は?」

「は?じゃない。まずはこれらを頭に入れるんだ。」

「…来て早々、これっすか」

「当たり前だ。時間がない」

「…………。」


 つまりこの山は、俺に課せられたノルマで。

 此処を離れてから、医学とはほぼ無縁の生活を送ってきたようなものなので、親父が教えてくれることでは足りないのは当然だ。

 思い描いていた状況はだいぶ甘かったようだ。






   *   *






「智洋。桃ちゃん迎えに来てくれてるわよ」

「ん~……」


 遅くまで父親に渡されていた書物を読みふけっていたため、俺は寝不足だった。そうでなくても、朝は苦手で、いつも冬瑚に起こしてもらっていたことを思い出す。

 今日は新しい高校に行く日だった。一般教養は必要なので、医学を学びながら、並行して普通科高校にも通う。なんてむちゃくちゃな話なんだろうと、今さら思った。


「お、おはよっ!」

「………おう」


 俺を迎えに来ていたのは、イトコにあたる篠田桃伽シノダモモカだ。

 昔、此処に居た時に遊んだことがあったと聞いたが、正直よく覚えていなかった。


 なんともあっけなく、こっちでの生活は始まって。

 彼女がそばにいないさみしさを、覆い隠すくらいの忙しさに、俺は早々にまいってしまう。

 

 それでも、時間をみつけては電話で冬瑚と話す、そんな些細な時間が幸せだった。


『あのね、バイト始めたの!』

「へえ、どこで?」

『〇×書店の近くに新しくできたカフェ!制服がね、すごく可愛いんだよ』

「今度写真送ってよ」

『やだよ、恥ずかしい』

「…ずるくね?俺見れないのに」

『…、智洋、そんなこと言う人だっけ』

「うるせー…」


 電話だと、顔が見れない分、少し素直になれる気もした。


 だから大丈夫だと思っていた。

 離れたって、平気だと。だって俺たちの絆は、そう簡単にくずれるものじゃないだろ?


 そんな風に思っていた。

 ―――それは甘い考えであったのだと、気付くのはすぐのこと。




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