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勿忘草  作者: 紫雨
第三章 -出逢い-
19/21

青-19- 総捨君逢


 ―――プライドとか、意地とか、そんなもの全部投げ捨てて。





 桃伽の荷物が入っているはずのトランクには、俺のものと思われる服たちが詰め込まれていた。

 

(―――はめられた、のか)


 改札を通った時から持たされていたチケットを握りしめて、指定席から見慣れたものへと変わりゆく景色を窓から眺める。


 途中の駅で、降りることだって出来たのに、俺はそれをしなかった。


 帰って、――どうするんだ。会いに行って、何を言う?

 

 “ごめん”?

 “連絡出来なくて、悪かった”?


(――謝ることしか思いつかねぇ…)


 そもそも、俺のことを覚えているのだろうか。


(―――俺は、忘れたことなんて無かった)


 いつでも冬瑚が、俺の中で、心を、感覚を、支配していた。

 忘れることなんて、出来るはずがなかったんだ。






   *   *







「――え、桃ちゃん来ないの?」

「!」


 列車を降りると、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 周りの音が一瞬のうちに遠くなって、全てがその声に集中する。


(……冬瑚、)


 駅のホームに、彼女は携帯を片手に立っていたその姿を、俺はすぐに見つけることができた。


「代わり?え、どういう―――」


 彼女も、吸い寄せられたようにこちらを振り向く。

 電話の相手はきっと桃伽だ、そう見当がついた。冬楜はきっと、彼女を此処で待っていたのだろう。



「――――とう、こ」



 名前を、呼んだ。

 彼女の名前を、愛しい名前を。



「……………ちひろ……?」



 その声に応えるように、俺の名を、彼女は紡ぐ。



(―――――嗚呼、もう)


 気付いたら、走りだしていた。


 持っていた荷物を放り出し、人混みを強引にかきわけて、彼女の元へ向かって進んでゆく。



 会いたかった

 逢いたかった

 あいたかった



 彼女が俺の胸に飛び込んできたのと同時に手を伸ばし、抱きしめた。



「――――っ」


(届いた)

 彼女に伸ばした腕が、空を切る夢を何度見たか知れない。


 感じる確かな温もりが、現実感を与えてくれる。

 喉元にこみあげてくる熱いものさえも、喜びに変わる。



「―――冬瑚…っ」


 確かめるように、彼女の名前を呼んだ。

 身体を少し離したら、彼女がこちらを見上げる。目には涙を溢れさせながら。



「……………おかえり!」


 そう言って笑う彼女にたまらなくなって、彼女の唇にくちづけを落とす。

 触れたと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれた。




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