青-19- 総捨君逢
―――プライドとか、意地とか、そんなもの全部投げ捨てて。
桃伽の荷物が入っているはずのトランクには、俺のものと思われる服たちが詰め込まれていた。
(―――はめられた、のか)
改札を通った時から持たされていたチケットを握りしめて、指定席から見慣れたものへと変わりゆく景色を窓から眺める。
途中の駅で、降りることだって出来たのに、俺はそれをしなかった。
帰って、――どうするんだ。会いに行って、何を言う?
“ごめん”?
“連絡出来なくて、悪かった”?
(――謝ることしか思いつかねぇ…)
そもそも、俺のことを覚えているのだろうか。
(―――俺は、忘れたことなんて無かった)
いつでも冬瑚が、俺の中で、心を、感覚を、支配していた。
忘れることなんて、出来るはずがなかったんだ。
* *
「――え、桃ちゃん来ないの?」
「!」
列車を降りると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
周りの音が一瞬のうちに遠くなって、全てがその声に集中する。
(……冬瑚、)
駅のホームに、彼女は携帯を片手に立っていたその姿を、俺はすぐに見つけることができた。
「代わり?え、どういう―――」
彼女も、吸い寄せられたようにこちらを振り向く。
電話の相手はきっと桃伽だ、そう見当がついた。冬楜はきっと、彼女を此処で待っていたのだろう。
「――――とう、こ」
名前を、呼んだ。
彼女の名前を、愛しい名前を。
「……………ちひろ……?」
その声に応えるように、俺の名を、彼女は紡ぐ。
(―――――嗚呼、もう)
気付いたら、走りだしていた。
持っていた荷物を放り出し、人混みを強引にかきわけて、彼女の元へ向かって進んでゆく。
会いたかった
逢いたかった
あいたかった
彼女が俺の胸に飛び込んできたのと同時に手を伸ばし、抱きしめた。
「――――っ」
(届いた)
彼女に伸ばした腕が、空を切る夢を何度見たか知れない。
感じる確かな温もりが、現実感を与えてくれる。
喉元にこみあげてくる熱いものさえも、喜びに変わる。
「―――冬瑚…っ」
確かめるように、彼女の名前を呼んだ。
身体を少し離したら、彼女がこちらを見上げる。目には涙を溢れさせながら。
「……………おかえり!」
そう言って笑う彼女にたまらなくなって、彼女の唇にくちづけを落とす。
触れたと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれた。




