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勿忘草  作者: 紫雨
第二章 -それぞれの-
14/21

青-14- 夢中君想


「冬瑚」


 オレは手を伸ばす

 目の前にいるのに、届かない


 伸ばせない

 届く距離に、君は居るのに


 それはまるでオレの心の中のようで

 このもどかしさが気持ち悪い


「智洋」


 彼女が、オレの名を呼ぶ。




「智洋、


 ――智洋くん起きろっ!」


 布団を引っぺがされて、スーっと身体に冷気が通る。

 一瞬で、現実に引き戻された。


「桃伽…」

「遅い!何回呼んだと思ってるのよ」

「…さみい」


 やっぱりというか、当たり前なんだけど、夢だったんだと思い知って落胆する。


「――オレ、なんか言ってた?」

「言ってた。重症ね」

「はは……」


(あー、やっぱり…)

 俺は薄く笑った。


「ま、それを承知ですきでいる私も、相当重症だけどね」


 と、彼女も笑いながら言った。





『私をすきじゃなくてもいいから。ただそばにいて、あなたを支えたい』


 そんなような言葉に頷いてから、もう2年が経とうとしている。


 彼女の、俺への気持ちはわかっている。

 でも正直どうしたらいいかわからない。


 俺は、やっぱり冬瑚が忘れられなくて、彼女は忘れてと言ったけど、忘れられるわけがなかった。

 それは俺があの町を出た時から、変わらない。


 桃伽も、俺の気持ちをわかってて、それでもそばにいてくれている。

 でもそんなの甘えにすぎないし、だけど突き放せなくて、ずるずるとこんな関係が続いてる。



 ただはっきり言えるのは、俺が冬瑚のことを忘れることなんてないってこと。

 だから桃伽の気持ちに、応えることはできないんだ。






   *   *





 

 桃伽が、しばらくこっちを離れることになった。

 おじさんについて、北にある看護大学の見学に行くらしい。


 それは、俺が住んでいた町から、そう遠くない場所だった。


「ねえ、智洋くんのいた町はどんな所なの?」


 ―――――思い出すのはいつだって、白。

 真白な、汚れのない色。


 思い出す景色は眩しくて、心の中でさえも目を瞑る。



「…智洋くんも行く?やること、キリついたんでしょ?」

「――……」


 その通りだった。

 要領も覚えて来て、昔程忙しくはなくなった。ちょっとの旅行くらい、おそらく支障のないくらいに。


 ここで、桃伽について行けば……理由になる。

 会いに行く、理由になる。



(―――でも)


 俺の中で冬瑚の存在は消えていないけれど、彼女の中の俺はどうなったんだろう。

 跡形もなく、消えたんだろうか。


 それを知るのは、とても恐ろしいことだった。


 今までだって、会いに行こうと思えば行けたんだ。

 この列車に、乗れば逢える。そう思ってホームに立つけれどあと一歩がどうしても踏み出せない。

 そんなことを、何回繰り返したことか。


 辛い現実を、この目で見てしまったら。

 彼女も忘れてはいないと、どこかで期待をしているくせに。


「……いや、いーよ。しっかり見て来い。」


 そう言って断る意気地の無い俺を見て、桃伽はそっと、呆れたようにため息をついた。




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