桃-13- 或朝贈夢
朝、彼を起こしに行くのが、今ではあたしの日課。
――ピーンポーン
「おはよう桃ちゃん、いつも悪いわねえ」
「おはようございますおばさま、お邪魔します。智洋くんまだ寝てますか?」
「もちろん。お願いね」
「お安い御用です!」
いつもの会話を交わして、私は智洋くんの部屋へと続く階段を上ってく。
「朝だよー起きて!」
ガチャリと勢いよくドアを開けて部屋に入る。
スッキリ片付いている、というか物の少ない、もう見慣れた彼の部屋。
窓際にあるベッドに、布団にくるまって丸くなっている彼は、残念ながらドアの音くらいじゃあ目を覚まさない。
シャ、と音を立てて、カーテンを開ける。
朝日が部屋に差し込んで、眩しい。あたしは一瞬目をつむった。
「――――――、」
その時、後ろで眠る彼が、何か言葉を発する。
「――起きたの?」
寝言だろうとは思いつつも投げかけた私の問いかけに返事はやっぱりない。
身じろぎを一つしたけれど、顔を覗き込んでみれば、目は開いていない。
だけどどこか幸せそうな――やさしい、顔してる。
「―――――とう、こ」
今度ははっきりと、彼が彼女の名を呼んだのが耳に届いた。
もう何度もこうやって聞いている名前だった。
(……彼女の夢、か)
幸せそうな彼の寝顔を、私だけが独り占めしているような、さっきまでの優越感とし胸がほんのり温かくなるような気持ちは、この時にどこかへ吹き飛んだ。
智洋くんが、未だに彼女を想っていることは知っている。よくわかってる。
だけどやっぱり寂しいと思う。彼女がうらやましいと思う。
会ったことも、話したこともない。ましてやあたしのことなんて全く知らないだろう。
そんな彼女は、彼にはずっと会っていないのに、連絡さえとっていないのに、今でも彼の心を支配している。あたしはいつもそばにいるのに、敵わない。
それがすっごく悔しいの。
だけど、それでも。
本当に知ってるから。
悔しいくらいにわかってるから。
「……あと、5分だけだからね」
君の愛する彼女と、どうか幸せなひと時を。




