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勿忘草  作者: 紫雨
第二章 -それぞれの-
12/21

白-12- つかのまの


 一度だけ、手紙を書いたことがあった。

 それはまだ、彼からの連絡をひたむきに待っていた頃のこと。

 近況とたわいもない話を、暑中見舞いの文字と共に。

 忙しいってわかってた。だから連絡とれないのもわかってた。

 だけど少しでも、こっちのこと、知ってて欲しいと思って。

 遠くても繋がってるんだって、思いたかったから。


 勿論返事は来なかった。

 来る訳ないって思いながら、やっぱり寂しかった。







 季節は巡って冬が来た。

 智洋が居ない、久しぶりの、冬。


「おー、雪…」


 静かな朝の空から、白が降ってくる。

 いつもより少しだけ遅い、初雪だ。


「…だいぶ、積もってる」


 夜のうちに降り積もったのだろう雪は、地面を白く覆う。そこには茶色とか緑とか、グレーも見えない。窓から見えるのは、どこまでも真っ白な世界。

 誰が銀世界なんて言ったんだろう?こんなにも、白いのに。




 雪が降れば、二人で外に飛び出してふざけあった。

 約束なんてしてないのに、決まって共に過ごした時間。大好きな時間だった。


「どうしよっかなあ…」


 外は雪。だけど彼はもう、此処にはいない。




「―――いってきまーす」


 寝間着であるスウェットの上からジャンパーを羽織って、マフラーをぐるぐる首に巻いて。

 完全装備で私は家を飛び出した。





 しんしんと降り積もる雪の中、南の町にいる彼のことを思い出す。


「……逢いたいね」


 誰に向かってでもなく、ぼそりと呟いた。

 いつもは心の奥底に閉じ込めてた想いが、ひょっこり顔を出す。

 雪は真っ白で、正直だから。

 私も正直で、いたくなったみたい。



 ―――たまにはこんな日も、いいんじゃないかな。

 こみあげてくる寂しさをおしこめて、空を見上げた。

 

 サクリと、後ろから足音が聞こえた。

 

「やっぱりこんなとこにいた」

「…加奈美!どうしたのー!」

「冬瑚が一人で雪遊びしてんじゃないかなーて思って。」

「……え?」

「毎年聞かされてたもの。雪が降ったら智洋と雪合戦だーって。嬉しそうにね。」

「あは…」


(そうだっけ)

 同じく幼い頃からの付き合いである加奈美には、耳にタコができるくらい話していたらしい。


「何、作ってたの?」

「ん、カマクラ。ミニサイズ。難しいんだよね。」

「雪だるまつくろうよ。私、頭ね」

「えーずるい!頭のがちっちゃいじゃんか加奈美。」

「早いもん勝ちー♪」

「もーっ」


 おかしくて、笑った。



 加奈美は優しいから。

 私のために、来てくれたんだってことが、すごくうれしい。

 きっと彼女がそばに居てくれたから、私は毎日笑っていられるんじゃないかな。

 さりげなく、支えてくれている。


「…ありがとね」

「なんのことかな?それ!」



 そっと呟いたら、照れ隠しのように、雪の塊が飛んできた。




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