白-01- 白色世界
3人の視点がコロコロと入れ替わりますのでご注意を。
忘れないで、と花を贈る。自分のいない、未来を想って。
私はそんなことできるほど、強くはなかった。
ねえ、私のこと、忘れてもいいよ。
でも私はきっと―――あなたのことを、忘れることはできないのでしょう。
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5歳の時から、私たちはずっと一緒だった。
「よろしくね。」
隣に引っ越してきたのは、私と同い年の男の子とその母親の二人だった。
母親に連れられ、一緒に頭を下げていた男の子は、青山智洋。
挨拶をして握手を求め差し出した私の手が、握り返されることはなかったけれど、一人っ子なうえに近所には年の近い子がいなかった私にとって、青山家の引っ越しはうれしかった。
それから、毎日のように遊んだっけ。
最初は人見知りしていたのか、智洋は静かだったけど、だんだんうちとけて、気がついたらずっと一緒にいる大切な存在になっていた。
「智洋ー!起きてるー?」
窓を開ければ、彼の部屋は手の届くくらい近かった。
コンコン、と窓をノックして尋ねる。返事は、ない。
(寝てるな…。)
智洋は朝に弱い。平日は私が起こしに行くこともしょっちゅうだ。
「ごめんくださーい!」
「あら、冬瑚ちゃん。今日も寒いわねー」
「おばさん、雪!雪降ってるの!雪合戦したいから智洋起こしていい?」
「やだ、あの子まだ寝てるの?叩き起こしてやって!」
「了解隊長っ!」
智洋の母親に敬礼のポーズをして、私は階段を駆け上がった。
そして勢いよくドアを開ける。
「智洋っ!起きてー!雪降ったよー!」
智洋は布団の中で「ん~」なんて言いながら小さく身じろぎをしている。
そんなことおかまいなし、私は彼が包まる布団やら毛布やらを一気に引っぺがす。
「えいっ!」
「――さみーよ馬鹿!何すんだよ」
「雪降ったんだよー!」
寝ぐせのついた頭をクシャクシャとかきながら、彼はのっそりとベッドの上に起き上がった。
窓の外の白い世界に彼は視線を移した。
「あー…ホントだ降ったんだ。ちょい待ってて。着替えたら行こ」
「うん!」
こんな北の町で、雪が降るなんて珍しくもないことなんだけど。
毎年、初雪が降った日は二人で雪で遊ぶことが、いつの間にか恒例になっていた。
「けっこう積もったな。」
「このくらいあれば、カマクラ造れるかなあ?」
近所の公園に積もり積もった雪を、二人して仁王立ちして見つめる。
「うーん…」
さく、と彼はまだ誰も踏み入れてない真白な雪の上を進んでいく。
そして雪を一つかみ、慣れた手つきで雪玉を作り、私に投げつけた。見事、命中。
「ったー!?不意打ち!いきなり!?」
「油断大敵~」
「最低!」
私もすぐに雪玉を作って彼に投げつける。毎年こんな感じの、変わらない私たち。
―――何も変わらない、雪の日だと思ってた。
雪合戦もキリがついて、休憩も含めてのんびり雪だるまを作ってるときだった。
後ろから、智洋の腕が回って、気がつけば私は、彼に抱きすくめられていた。
ぎゅう、と彼の腕の力が強まる。
「―――ち、智洋…?」
速まる鼓動が、彼にまで聞こえてしまいそうだ。
触れてる背中が――熱い。
「冬瑚」
耳元で、低く囁かれる。
息が、耳にかかって全身に電撃が走ったみたいに熱い。
振り向けば真剣な表情の智洋が、その瞳が、私をじっと見据える。
私はそれに吸い込まれるように、目を閉じた。
チカチカと、雪が光って眩しかった。
白い世界で、唇が触れた。優しく、そっと触れた。
熱いくらいの身体に、少し温かい唇。
夢をみているみたいだった。あたたかくて涙が出そう。
どうしてキスされたんだろうとか、何が起こっているんだろうとか、彼の気持ちとか。
その時は全く考えられなくて、ただ与えられる口付けに、酔っていた。
でもそれが、自然なことのように、感じていた。
私たちはずっと一緒だった。出会ったときからきっと、私は彼がすきだったから。
確かな言葉を、言われたこともないのに、彼も同じ気持ちのような気がしてた。
信じてたんじゃなくて、決めつけてた訳じゃなくて――ただそんな気がしていた。
「…すきだ」
唇が離れて、二人の間に風がすっと通った。
そして吐き出すように落ちてきた言葉は、しっかりと私の耳に届く。
「…うん、私も」
そう言ったら、彼はふわりと微笑んだ。
微笑んだけど、どこかさみしそうな顔をした。
「………冬瑚」
そんな表情の真意に、私が気付くことはなくて。
伝えあった想いに、どこか安心していて。
だから、それでも 変わることはないと、思っていた。
「俺、この町を出るんだ」
静かに、智洋は言った。




