チキンな友達のチキンなデートagainその7
スマホを手に取り、声をかける、
「あーあー。こちら上本応答願う」
『何だ上本今良いところなのだ…後にしろ』
好きな人とデートしてる時点でずっと≪良いところ≫なのでは?
「皆見さんが合流したから尾行を続行する」
『最早居ても居なくても結果は変わらない様な気がするのだが…』
失礼な。俺たちがいないと絶対告白しないだろう。
『そもそも我は皆見さんが苦手なのだ。』
わかる。
「ならさっさと告白しぃや。終わり次第帰るからさ」
『ダウトだ上本。貴様のような男が我が≪従僕の儀≫を終えたところで帰るわけがない』
「普通に告白って言えや」
何だよ従僕の儀って。
「てかいつ告白すんねん」
『夕暮れに染まる観覧車で』
それ中二病ちゃう、単なるロマンチストや。
「その言葉忘れんなよ」
『当たり前だ』
通話終了。さてどうしたものか。
「那月、永秀君は何と言っていた」
ベンチで缶コーヒーを飲み飲んでいた月詠先輩に尋ねられる。
「夕暮れに染まる観覧車で愛しの千尋と悠久の時を過ごしたい、とのことです」
やれやれだぜ。告白のタイミングとしてはベタ、ありがちだ。
「そうか…上手くいくといいな」
何故か月詠先輩は悟ったように空を見上げた。
月詠先輩の視線の先には雲が多くなっている空がある。瑞雲ですよね分かります。
「上本くん。これを見て…」
缶コーラを片手に持つ皆見さんからスマホを渡された。
「えーなになに。5時からの降水確率100%…?」
全然瑞雲じゃなかった。豪雨らしい。
「丁度さっき莉緒香と早めに帰ろうという話をしていたところだ」
なるほど。じゃあ
「夕暮れの観覧車実現不可やん」
「まぁ、そうなるな」
「でも雷が鳴れば吊橋効果が期待できるんじゃ…?」
「それは無理や、皆見さん」
「どうして?」
皆見さんがキョトンとした顔をこちらに向ける。豪雨なら雷もなるだろう。
だから理由はもっと根本的な部分。
「あいつは雷苦手やねん」
雷が鳴る中、音坂さんに抱きしめられながら泣きじゃくる黒田の姿が想像出来る。
何だそれはそれで羨ましいじゃないか。
「それなら千尋ちゃんが黒田君に告白すればいいんだよ」
これで解決、と皆見さんが笑みを浮かべた。
「いや、それは無理だろう」
一瞬考えた後に月詠さんが否定する。
「えー、何でですか?」
皆見さんは二度も意見が否定されるとは思っていなかっただろう。少し驚いたようだった。
「朝の千尋の反応を見る限り、いざとなった時にパニックを起こすかもしれない」
「でしょうね」
まぁわかってはいた。告白をすると意気込んでいたのは黒田だ。音坂さんには少し荷が重い。
皆見さんは俺の同意する声を聞いて、少し絶望したような顔をした。




