チキンな友達のチキンなデートagainその5
100話なのに出番が殆どない系主人公
「あー怖い」
「棒読みだぞ那月」
「ククク…我が覇道を持ってすればこの程度おそるるに足らず…」
流石にヘッドセットを外したが、銀髪のウィッグは外さない黒田。腕を組んで豪語する。
「な、永秀ぇ...」
「どうした千尋」
「こ、怖いからぎゅとしても…いい?」
「あ、あぁ。わ、我は一向にかまわんッッ」
そうして音坂は身を乗り出して、前列の黒田の首に腕を巻き付けた。はぁ…イチャつきやがって。
薄暗く若干の肌寒さを感じながらも急流滑りは前進を続ける。前回の優妃とのデートの時の失敗を踏まえ、今回はレインコートを購入。
さて、気になる今回のフォーメーションだが前から黒田、音坂、俺、月詠先輩となっている。
カタカタとthe機械って感じの音と共に一気に上昇していく。あー怖い。誰か俺の代わりに『押すなよ押すなよ』って言っていただけないだろうか。
刹那の絶景。かーらーのー。
「うわぁぁぁぁぁ」
重力やら何やらで、スピードが一気に上がる。イチャついて悲鳴どころじゃないのか、黒田と音坂とくにそれっぽいリアクションがない。後ろの月詠先輩も特に悲鳴をあげない。叫んでるのは俺だけ。あー恥ずかし。
「くぅー疲れた」
一旦黒田達とは別行動を取ることにした。黒田と音坂の進行方向とは真逆の方向にただ歩いた。
あらかじめ凌哉と待ち合わせ場所を決めておいたのだが…凌哉の姿がない。合流する予定のはずだが。
ハルミンから着信がありました。
スマホ画面に書かれている文字で察する。ハルミンとは凌哉のことだ。好きなアニメのキャラの名前を組み合わせたハンドルネームだ。
大体どんな用か察しているが、一応電話をかける。ツーコールの後にガチャという音が鳴り通話が開始される。
「もしもし凌哉?」
『あぁ上本か』
「お前どこおるん?」
『悪い。バイト入ったから帰ってる』
「うぇ。マジか」
『俺の代打用意しておいたから、あとは頼む』
「あーい」
凌哉の代打。一体誰だろう。まぁいいや。
「月詠せんぱーい。」
「どうした?那月」
「なんか凌哉がバイトで帰っちゃったんですよ。流石にこのままダブルデートってのもあれやから、ここはもう帰りません?」
「私は一向に構わないが…」
でしょうね。
流石に入園料とか払って貰った手前、めちゃくちゃ言いづらいのだが浮気性だと思われるのも癪だ。彼女公認とは言え世間一般的にダメな気がする。
「先輩腹減りません?取り敢えず飯行きましょう」
「あぁ…そのことだが」
突然モジモジする月詠先輩。天変地異の前触れかな?
「手作り弁当を…作ってきたんだ」
そう言って月詠先輩がカバンから取り出したのは三段の重箱。なるほど。
「じゃあどこか座れる場所を探しますか」
「そうだな」
取り敢えず歩き出した。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
月詠先輩の作ってきたお弁当(大)は本当に美味しかった。おかずは俺の好物である餃子や唐揚げ、豚キムチなども入っていて、かつ野菜も入っていてバランスの取れた最高の弁当だと言えるだろう。おにぎりの具の種類も豊富で、なんと言っても変わり種のチーズベーコンには驚かされた。程よい塩分がおにぎりとの相性が抜群で最高に美味かった。
後片付けも済ませ黒田の尾行を再開する。黒田の位置はヘッドセットに搭載されているGPSで正確に把握できる。藤宮グループは最強だ。
「月詠先輩って普段から家事とかするんですか?」
「時々、な」
時々であのレベルかぁ。俺も料理には自信があったんだけどな。
「やっぱり月詠先輩は凄いですね」
「煽てても何も出ないぞ?」
「本心ですよ」
「そ、そうか」
照れる月詠先輩は見てて面白い。
「いやー月詠先輩をお嫁さんに欲しいくらいっすわー」
その瞬間背中に痛みが走った。月詠先輩に両肩を掴まれ、自販機に貼り付けにされる。
そして、顔のすぐ横に月詠先輩の左の肘をドンっと。所謂壁ドンの構図に。
「私も舐められたものだな」
やばっ。地雷踏んだか。
「あっ、あの」
「那月が嫁で、私が旦那だろう?」
俺の声を遮り右手で俺の顎を軽く持ち上げ、目線が合う。
やべぇ。ドキドキが止まんねぇ。見慣れた月詠先輩が直視出来ない…。
「あの…月詠先輩」
「なんだ?」
「練習してきたんですか?」
「なっ…!そんな訳がないだろう!」
この人ほんと嘘つくの下手だな。




