チキンな友達のチキンなデートagainその3
「来たか」
見知った顔がそこに。
「おはよーございます月詠先輩」
「どうも藤堂先輩」
時間に余裕を持ち、待ち合わせ場所に到着したが、藤堂先輩はもう着いていた。
「永秀君と千尋はもう家を出たのか?」
「とっくの昔に出てますよ。月詠先輩このスマホに声をかけてみてください」
「あーあー」
『!?その声はまさか会長殿!?』
「この声は永秀君か。通話中なのか?」
「いやちょっと実況者風の装備を貸した、というか」
マスクは向こうが用意してくれた。
「このデートが失敗しないようにある程度指示を出そうと思って」
「ふむ…確かにそれはいい考えだ。失敗した時のリスクを考慮すれば決して悪い手ではないだろう」
『会長殿まで…』
「安心してくれ永秀君。恋愛に関しては私の右に出る者はいないと自負している」
恋愛以外で右に出るものがいなさそうなものだが。
『そもそも会長殿は男の趣味が悪いではないか!』
「あれ?これって俺の悪口?」
上本の悪口なんて日常茶飯事だ。
さて…
「こんな問題お前一人で抱えてんじゃねぇよ!もっと俺たちを頼れよ!」
ついカッコいいことを言ってしまった。
『確かに…そうだな』
チョロい。
『すまない。我に協力してくれ!』
面白くなってきたぜ…!
何故か上本が持ってきていた双眼鏡を使い、辺りを見回す。そして見つける。
「聞こえるか黒田。音坂さんを発見した。見つかるとマズイから先に入っておく」
『了解した』
この前のように入場してすぐ近くにある茂みに身を潜める。女1人と男2人。距離近いなぁ。可奈さんとは違ういい匂いがする。
しばらくして音坂さんがはっきりと見える。ここから距離は200mもないだろう。黒田の位置からもせいぜい100mといったところ。
「千尋が可愛い服を着ているだと!?」
そういう藤堂先輩だって可愛い服を着ているじゃないか。白を基調としたセーターとジーパン。足が長い藤堂先輩によく似合っている。
「月詠先輩重いです」
巨乳の女の人が背中にのしかかっているのに上本の反応はおかしい。いやそこじゃないか。
一年生にしてバレーボール部エースでキャプテン候補の音坂千尋。瞬発力に優れ、100m走は上本と引けを取らない。
そんな音坂さんがミニスカートを履いている。九州旅行の時でさえズボンを履いていたのに。制服以外でスカートなんて明日は槍が降る。
「聞こえるか永秀君。今日の千尋は可愛いぞ!」
そんな「今日の日替わり定食は唐揚げだぞ」みたいな言い方しちゃダメですよ。普段の音坂さんが可愛くないように捉えられる。
『ククッ…彼女は覇道に関しても我に匹敵する。美貌も最たるものだろう』
うぜぇ。音坂さんは黒田のどこが気に入ったんだろう。
「なぁ、なんであの2人あんな離れてん?」
上本に言われ気づく。2人の待ち合わせ場所は切符売り場の前のはず。黒田はもう既にスタンバイしている。何故か音坂さんが切符売り場に近付こうとしない。
「なぁ黒田。なんで音坂さんがあんなに遠くにいるんだ?」
『おかしい…待ち合わせ場所はここで合ってるはずなんだが…』
「もしかして音坂さんが間違えてるとか?」
『だろうな』
「なら早く連絡取って…」
「待て。ここで千尋がミスをした事に責任を感じて今日1日変な空気になったらどうする」
いつになく心配性な藤堂先輩。
『それも…そうだな。我が直々に出向こう』
なんだこいつ。
『お、おはよう。千尋』
『あ、あぁ永秀!?お、おはよう』
スマホのスピーカー越しに音坂さんがパニックに陥っているのか伝わる。
『今日の永秀は可愛いね!』
「なんでやねん!」
すかさず上本のツッコミ。まぁ気持ちはわかる。全身真っ黒で銀髪のウィッグとヘッドセットをつけている。普通ならツッコミどころ満載なはず。
『その…千尋も可愛いぞ?』
もう滅茶苦茶だ。
「先回りするぞ。こっちだ」
藤堂先輩の後について行く。
藤堂先輩が入園料を奢ってくれた。やはり藤堂先輩は頼りがいがあって天才で容姿端麗で巨乳の最高の生徒会長だ。でも
「男の趣味がなぁ」
「何か言ったか?」
「いえ何でも」
凍てつくような笑顔と共に黒田永秀と音坂千尋のデートが始まった。




