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チキンなオレ流高校生活!  作者: 仁瀬彩波
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生徒会の日常その3

「先輩方のご健康とご活躍を祈念して、送辞とさせていただきます。 在校生代表藤堂月詠」

「全員起立、礼」

 藤堂先輩の送辞が終わり、後は卒業生の答辞で卒業式が終わる。上本と健人はまだ負けてないらしい。あと1時間くらいで応援に行けるだろう。卒業式後の生徒会の仕事は全て(ふくろう)に任せてある。便利な奴だ。


「すみませんあとはお願いします」

「了解した。いってらっしゃい」

 各学年主任の教師へ謝罪やらお願いやらをして回り、雪ヶ崎駅へと向かった。


「上本と健人大丈夫ですかね…」

 若干心配になってきた。

「優妃からも負けたという連絡はない。私達に出来るのは応援することだ」

 流石藤堂先輩頼もしい。残りの生徒会メンバー全員が電車に乗ったのだが、時間的にも電車は空いていた。8人がけの長椅子に全員座ることができた。

「え、えっと何分くらい乗るんですか」

「大松の筋肉が膨張するくらいまで」

「し、慎司君!」

「あべし!」

 これは慎司が悪い。

「永秀っ!お菓子食べる?」

「うむ」

 いちゃつきやがって。

「凌哉くんお菓子食べる?」

 どうやら隣の可奈さんは遠足気分らしい。これから上本と健人が雪ヶ崎高校の歴史に名を残すかもしれないというのに。ここはビシッと言ってやらないと。

「いや、可奈さん。これから大事な…「はい、あーん」あーん」

 チョコレートは甘いなぁ。


 会場に到着した。

「あっ、お久しぶりです月詠(つくよみ)さん」

「やぁ優妃。那月と健人君は?」

「まだ試合中です。こっちです」

 藤宮さんの行く方に着いていく。

「あれ凌哉?」

「げっ…莉緒香」

「ちょっと女子に向かってそれはないでしょ」

 まさかここで会うとは。大方健人の応援だろうが。歩いて二分弱の会場の奥の方にあるコートで上本と健人がラリーを繰り広げているのが見えた。どっちが勝ってるんだ。

「スコアは?」

「うちが最後に見た時はゲームカウントの6-5の15-15で那月たちが勝ってた…と思う」

 接戦中の接戦じゃないか。だがこのゲームを取れば上本達の勝ち。全力で堪えてほしいが。

「これはまずいな…」

「どうしたんすか藤堂先輩」

「那月と健人君…バテてるな」

 言われて見れば2人とも息が上がっている。いや、でも…

「健人は持久走学年1位なんですよ。そんな四試合くらいで疲れるなんて」

 と、思ったが健人の足はどう見ても止まっていた。

「やられた…」

 健人のボレーはネットを超えず40-30。これを取られればタイブレークになる。そうなると上本達に勝ち目がないような気がする。

「藤宮さん。上本達のキープ数は?」

「1」

 なんてこった。キープとは自分のサービスゲームを取ることだ。自分のサーブで始められる分早く攻めることができる。

「恐らく那月は疲れがピークだろう。このゲームで勝ちきらないと」

 藤堂先輩の言葉通り。上本はバック側でボールをつき呼吸を整えている。真冬なのに凄い量の汗。手汗が気になるらしく、手をズボンに擦りつけグリップを握り直す。

「…ラァ!」

 後がない上本は残りの力を振り絞り渾身のサーブを打つ。ボールはセンターへ…。

「入った…サービスエース!」 

 これでデュースだ!これで勝機が見えた。が、しかし

「フォルト!」

 どうやら上本のサーブは若干ラインの外側に出ていたらしい。サービスエースのように見えたせいで上本の緊張と集中は切れた。明らかに動揺している。ボールをつく様子を見ても集中とはかけ離れているようだった。落ち着け、とか切り替えろ、とか言っても無駄なのは知っている。重要な場面でのミスは他人の言葉で聞こえなくなる。経験者は語る。

「健人ぉ!無理やあれ使う!」

「…ちっ!」

 上本が声を張り上げ健人はポジションを真ん中に寄せる。そして上本もシングルスの試合の如くセンターでサーブの構えを取る。

「凌哉君あの構えって一体…」

 明らかに普通ではない構えを見て可奈さんに尋ねられる。

「アイフォーメーション。上本がセンターにサーブを打ち健人がボレーを狙おうとしてるんだ」

「センターにサーブってちょっとずれたら点取られちゃうよ」

「上本たちは後がない。だが、相手もここを取ると一気に楽になる。相手もある程度プレッシャーを感じてるはずなんだ。さらに滅多に見ないフォーメーション。打ち損じる可能性も十分ある」

「なるほど…」

 微塵もわかってないだろな。

「ふぅ…。ンっ…ラァ!!!」

 上本の放ったサーブはセンターに!

「ナイスサーブ上本!」

 あとは健人がボレーを決めれば。

「はぁ!?嘘だろ」

 相手のリターンは健人の頭上を越えるロブ。それもストレートに。攻め急いでもおかしくない場面だぞ。

「クソッ!!」

 ストレートラリーを避けようと上本の放ったストロークはクロスに。何やってんだバカ!。相手の前衛の真正面。軽くラケットに当てるだけでボールはあっという間にツーバウンド。戦いはタイブレークに突入した。


「あかんわ完全にガス欠やわ」

「…流石にきついな。ハンデかハンディキャップ貰ってくるか」

「どっちも一緒やんけ」

 ベンチでの談笑にも疲労が表れているようだった。何というか上本のツッコミにキレがない。

「やぁ那月、健人君。どうだ相手は」

 ちょっと藤堂先輩ベンチの選手に話しかけちゃまずいですよ。…と思ったが、相手もフェンス越し女子と話している。お互いさまってことか。

「どうも藤堂会長。相手の球が尋常じゃないくらい重くて打ち負けます。あと体力が限界です」

「ふむ。那月は?」

「クロスにとんでもない球打ってこられて手も足も出ないっすわ…」

「なんだ那月。元気がないな。君の長所は明るいところだろう。もっとテンション上げていけ」

「そうは言っても攻略法とか見つからないんすよ」

「あるぞ。攻略法」

「教えてください月詠様」

 上本が土下座をしている。いつもの上本に戻ったのか。

「クロスに強打を食らわず、早く蹴りをつける方法」

 みんなの注目が藤堂先輩に集まる。

「それは…オーストラリアンフォーメーションだ」


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