全国大会を目指すチキンその3
コートの数も多く、試合の進行も早かった。第一シードの俺と健人は初戦の相手になるであろう相手の試合を見ていた。
「スピンばっかやな。ボレーで決めるか」
「…意外だな。俺はてっきり『スピンダービーやでぇ!?』とか言うもんだと思ってた」
「エセ関西弁やめぇや。俺が言いたいのはスピンをガンガン使ってくるやろうから積極的にポーチ出てくれってこと」
スピンダービーも魅力的だが、初戦からスピンは多用したくない。
「了解」
見ていた試合が終わった。どうやら俺達の一回戦の相手は鳳泉学園の二年生ペアらしい。鳳泉学園かぁ…。どこかで聞いたことのあるような。
「健人くーん!」
うっ…眩しい。
「よう莉緒香」
なんだなんだ。健人の知り合いか?
「あぁ、紹介する。凌哉の元カノの皆美莉緒香」
「上本くんだよね?。凌哉と健人くんから聞いてるよ。彼女が可愛いんだって?」
「いやいや。そんなことないって。皆美さんの方が可愛いわ」
「は?那月もう一回言ってみろ」
「優妃!?トイレに言ってたんじゃなかったん!?」
「行こうとしたら女の人と話してるのが見えたから戻ってきた」
Oh,mygod。
「これは誤解なんですよ優妃さん。日本人の美徳である謙虚さがあふれでたと言いますか」
「お前が最近巨乳の女優ばっか見てるの知ってんだかんな」
「なんでそのことを!?」
購入履歴は消したはずだ。
「なんか大変みたいだね。健人くん、私達は向こう行っとこっか」
「そうだな」
健人…この裏切り者がぁぁ!!
「目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
優妃さん怖いですよ。
さて、一つ思いついた。優妃が彼女と掛けまして怪我をした漫画家と解きます。その心はどちらも『隠し事ができない〈描く仕事ができない〉』。おあとがよろしいようで。
15番コートの試合が終わり、俺達の試合に。
「健人くぅぅぅん!!!頑張ってぇ!!」
「おう」
フェンスの後ろから皆美さんが叫んでる。親バカみたいな感じがする。
「じゃ」
俺が健人に拳を突き出す。
「頑張るか」
それに合わせて健人が俺に拳を合わせる。試合前のルーティンワーク。俺と健人でダブルスを組む時に必ずすること。緊張で周りが見えなくても一人ではないということを直前に確認する。今日もなんとかやっていけそうだ。
こっちのサーブでゲームがスタート。俺はバックサイド。健人のサーブから始まる。
「一発ぶちかましたれ」
「言われなくてもわかってる」
だろうな。
腰を落とし、若干後ろにも気を配りながらポジションを取る。ポーチ出ないよーなんて気配を漂わせる。コートの端の端。サイドを抜かれないようにする感じで構える。
「…ふん!」
健人の放ったサーブはかなりのスピードでセンターを襲う。相手はバックで対応するが当てただけの浅く弱々しいリターン。
「ッラァ!」
1ポイント目。俺のスマッシュで俺と健人の県大会は幕を開けた。




