全国大会を目指すチキンその1
日の出が6時半とかの日に、太陽が上がるよりも早く起きなければならなかった。痛む膝をさすりながら出発の準備をする。雪ヶ崎高校のロゴが入ったウィンドブレイカーに身を包み士気を高める。自分以外の家族は全員寝ている。いや弟の冬深だけは起きているはずだ。
中学生のうちから徹夜なんてまともな大人になれないぞ。俺が言うのもなんだけど。どうでもいいが女の子が欲しかったからって女の子みたいな名前つけられたらたまったもんじゃないだろうな。冬深に同情するぜ。
『早く出てこい』
準備も終わったタイミングで連絡が来た。財布よし、スマホよし、リュックサックよし。完璧だ。
「いってきまーす!」
起きてるはずの冬深からの返事はない。随分と嫌われたもんだ。
「おっす健人」
「1分14秒遅刻だ」
「細かいなー」
不貞腐れつつも、わざわざマンションの11階まで来てくれるあたり良い奴だなぁと思う。
「朝飯どうする?」
「…途中コンビニで買うか外食か…だな。時間的にどっちも余裕だがどうする?」
「せっかくやしどっか入ろうや」
「賛成。今日は何が何でも勝たねばならないからな。空腹で力が出ないなんてシャレにならねぇ」
健人の言う通りだ。公立では強豪である雪ヶ崎高校だが、私立勢に圧され全国大会出場を逃しまくっている。50%運が絡んでいたが、6勝すれば全国大会に出られる位置まで来た。
「…緊張してるか?」
伸びきった髪が珍しくサラサラな健人に問われる。
「緊張してなかったら絶対俺化け物やろ」
「だろうな」
生徒会業務でサボりがちだったのにここまで来れた。サンキュー相手のガット。若干申し訳なさもあるが、予備のラケットは三本用意しておくのが基本だ。
「いい加減ラケットバッグ買ったらどうなんだ」
「ラケットケース二つで丁度いいねん。オレ流のこだわりみたいなやつよ」
ポケットの中のスマホが振動したのがわかった。画面にはこんな文字が浮き上がっていた。
『4回勝て。応援に行く。月詠より』
あの人らしい情が篭っていないような、最小限で物事を伝えようしてくるような、そんな文章。
「…内容は?」
「ベスト4まで行けやって。無理ゲーにも程があるわ」
全国に行くためには六回勝たなくてはならない。そのうちの4回を健人と二人で戦い抜くというもの。今日という日が卒業式と被っているため部活の仲間どころか顧問すら来ていない。
「やるしかねぇだろ」
「そうやな」
笑い合い、駅に向かった。




