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チキンなオレ流高校生活!  作者: 仁瀬彩波
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チキンなオレ流…

 2人で出掛けるのが何度目だなんて分からなくなった。ただ、その中で思いを打ち明けようと思ったのがほんの数回だってことは分かる。そりゃ女神のような美しさで微笑まれたらどんなチキンだって思わず変なことを口走りそうになるだろう。

 可奈さんがとんでもない尻軽女という訳じゃなければ、俺のことをちょっとくらいは良く思ってくれているはず。普通に考えて好きなら告白すべきだろうが、どうしても俺には無理だった。


 元カノ-皆美莉緒香(みなみりおか)への罪悪感もあるが、何より怖かったのだ。行動を起こして関係が壊れるくらいなら友達以上恋人未満を楽しみたかった。そんなめちゃくちゃありがちで現実的な理由。チキンとかヘタレとか言われて当然だろうな。でもそんな俺とは別れを告げる。今日のデートで俺は可奈さんに告白する。正月の決意から1ヶ月も過ぎた。遅くなったが、俺の決意は固い。

 電車に揺られながら俺はセリフを考えていた。


 お気に入りのライトノベルの特典を求め秋葉原に行くことになった。生徒会室で可奈さんにその事を話すと同行してくれるらしい。他に用があると言っていたが、まぁ建前だろう。

 電車を降り、待ち合わせ場所に向かう。俺の天使は一体どのにいるのかなー。今のかなーは可奈さんと掛けたハイレベルのギャグだ。いつもの掛け合いのようなやり取りも特別な意味を持つような気がしてきた。俺の一つ一つの声で告白することがバレそうだ。莉緒香の言葉を思い出す。『嘘をつくのが苦手な人は恋愛に向いてない』か。全く、その通りだ。


「お待たせ。凌哉くん待った?」

「んー。いや今来たところ。あと今日の服もかわいい」

「ほんと鉄板だね。この流れも」

「本当にな」

 そう言って笑い合った。ネックウォーマーから伝わった熱でメガネが曇る。直視できないし丁度いい。


 来週はバレンタインとかでこの秋葉原もリア充の迎撃体制を整えつつある。アニメのグッズを買えば特典としてチョコレートが付いてきたりするのもあるらしい。ちなみに今日俺が買いに来たライトノベル-架空世界の暗殺者の最新刊には特典として、オリジナルのしおりが付いてくる。これがまた店舗によって描かれるキャラクターが違うから自分の推しキャラ全員を集めるのに苦労するんだよなぁ。

「凌哉くんってここよく来るの?」

「まぁな。上本とか慎司とかと結構来るかな」

「へぇー。その時は何か買ったりするの?」

 大きな声で言えないような物などを。

「おう。フィギュアとか」

 それもエロいやつ。

「あー。なるほどね」

 恐らくそっち方面だとバレなかった。そう言えば俺遠足の時に血迷って趣味をナンパとエロ本の読み漁りって言ってたな。チキンにナンパなんて無理ゲーだと可奈さんは知ってるだろうな。


 ここ秋葉原は架空世界の暗殺者の舞台でもある。何回も来ているため、あまり特別感はない。しかし、その架空世界の暗殺者に出てくる推しキャラがたまたま俺と同じドーナツ屋さんで、たまたま同じ席で、たまたま同じものを食べていた事を知った時は発狂した。わかる人にはわかるだろう。自分がしていた事を推しキャラがすることの喜びは例えようがない。


「もうすぐ三学期も終わるんだね…」

 悲しそうな目で見つめられる。

「俺は進級できるか危ういけど」

 担任教師藤原の話によると留年と進級の狭間を行ったり来たりしているらしい。

「絶対出来るよ!ほら生徒会メンバーが留年する事なんて今まで無かったって月詠さんが言ってたし」

 だからこそ歴史に名前を残そうとしているんだが。

「可奈さんから貰ったチョコレートを励みに学年末テストは頑張ったよ」

「私は凌哉くんの女子力の高さのせいで学年末テストは頑張れなかったよ…」

 雪ヶ崎高校の学年末テストは2月15日に行われた。前日のバレンタインに俺は生チョコを作ったのだ。それが生徒会メンバーに結構好評みたいだった。たがそのせいで可奈さんから自信を奪ってしまったようだ。

「料理は得意だからな」

「ほんと羨ましいよ…。」

「可奈さんのチョコレートも美味しかったよ。その…元気出して」

「こういう時に普通は励まされたりしないよ…」

 やべ。逆効果だったか。

「でも…ありがと」

 なんだ天使か。


 目当ての店で目当ての商品を見つけ、レジに並ぶ。どうやら今日は色んな本の最新刊が発売されたされてるらしく、レジには長蛇の列ができていた。まぁ隣に可奈さんがいるだけで待ち時間が幸福に変わる。

「その表紙の娘可愛いね。凌哉くんこのキャラ好きなの?」

「そりゃもうめちゃくちゃ好きだ。このキャラ目当てに秋葉原まで足を運んだと言っても過言じゃない」

ショートヘア―に命を懸けてるからな。

「ふーん…私も髪切ろうかな…」

 可奈さんが髪をいじりながら呟いた。

「可奈さんは長いほうがいいよ。多分」

「そう…かな」

 そんなに照れるなよ。女神かと思っちゃっただろ。しかしまぁ視線が痛い。周りからはリア充だと思われてるんだろうな。


 目当てのものを買い終わり、帰路につく。この街はビルが多く立ち並ぶため、風が強くて寒い。ビル風というやつだ。

しかし予想していたとはいえ、用事というのは本当に建前だとは。そんなことを考えていたら不意に斜め後ろを歩く可奈さんに腕を引かれ…

「ねぇ凌哉くん。私ね、今が本当に好きなんだ。多分何をどうやったって二度と手に入らないような時間が好き」

「俺は少し物足りないかな」

 おっ。今のセリフなんかカッコイイ。しかしこれはチキンな俺特有の誤魔化しだ。はっきりと分かる。無理やり思考を脱線させて誤魔化している。…これじゃダメだ。

「凌哉くん…実は今日凌哉くんに伝えたいことがあるの」

「随分と奇遇だな。俺も可奈さんに伝えたい事があるんだ」

「私は…凌哉くんのことが好きです。付き合ってください」

 そう言った可奈さんの顔は真っ赤に染まり、俺の目から視線を外さない。腕は震え、いつものように履いてきたスカートをギュッと握る。

「ありがとう可奈さん」

 返事で目を合わせられない。何を考えているか把握されてしまう。

「でも俺は…その告白を受けることが出来ない」

「だよね…」

 可奈さんの目には涙が浮かぶ。許してくれ。これは俺が決めたことなんだ。

「俺が言いたい。可奈さん好きだ!俺と付き合ってくれ!」

 勢いに任せると案外言葉になるもんだ。

「…はい」

 2月20日。俺と可奈さんは付き合うことになった。

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