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チキンなオレ流高校生活!  作者: 仁瀬彩波
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初詣に行くチキン

 寒い。まず最初の感想がそれだった。かなり着込んで来たのがそれでも寒い。

「遅い」

「ごめんごめんお待たせ。んじゃ行くか」

 ラストの1人上本那月(うえもとなつき)が待ち合わせ場所に到着。こいつ待ち合わせの時間に余裕を持って遅刻してきやがった。そのせいで俺と健人は2人で温め合うことになったじゃないか。12月31日の午後11時30分に野郎3人組でデカい神社に行こうとなったのは合宿が終わってすぐに上本が突拍子もなく誘ってきたからだ。自転車に跨りペダルに力を込める。冷たい向かい風の中新年の幸運を祈るためだけに神社へ。


「着いたなー」

 そう言い上本は少し伸びをした。

「…人多すぎ」

 自転車で20分くらいかけて着いた神社は人で溢れかえっていた。俺たちと同じようなことを思ってきたのだろうが、何とも言えない奇抜な服装な輩が多かった。

「あれがパーリーピーポーって奴か」

「多分そうやろうな」

「…リア充が多い」

 御賽銭には長蛇の列ができていた。並んでる間に年が変わりそうなくらいに。

「並ぶか」

 俺の提案に対して変人2人組は渋々同意してくれた。


「…あと五分」

 結局列は全く進まず並んでる間に年を越すことになりそうだ。

「しゃーない。俺ジュース買ってくる」

「俺コーラ」

「俺はブラックコーヒー」

「待って俺パシリ?」

 あぁもちろんだ、という意思を込めて頷いた。半泣きで自販機に向かう上本を眺めながら、しりとりを再開する。


「買ってきたで。ほれ有難く飲め」

 二分後に年が変わるってタイミングで上本は帰ってきた。

「サンキュー」

 上本から缶のコーラを受け取って気付く。

「冷たいっ!」

「何を当たり前のこと言うとんねん」

 寒い日にコーラはミスチョイスだったか。誰か偉い人よホットコーラを作ってくれ。

「あったまる」

 ブラックコーヒーを飲んでいる健人が呟く。結構匂いがキツい。

「健人、それ一口ちょーだい」

「仕方ねぇな」

 健人から缶を受け取った上本が一口。

「苦っ!」

「お前にはまだ早い」

「クソー。飲めると思ったんやけどなー」

 ホットココアでいいじゃん。他愛のない雑談も今年ラストと思うと何か変な感じだ。と、ここであることに気付く。

「この音…除夜の鐘?」

「多分そうやろな」

「これって何回鳴らすんだっけ」

「…人間の煩悩の数、108回」

「え、ちょっと待って俺の煩悩の数絶対500超えてるやん」

「…お前はNTRの沼にハマり過ぎなんだよ」

「お前…彼女が他人とヤってるのに興奮すんのか…」

「応とも!」

 清々しい顔で答えられてもなぁ。

「藤宮さんが泣くぞ」

「優妃はある程度知ってると思う」

 えぇ…。ドン引きだぜ。

「流石にないな。うん。引いた」

「なんか勘違いしてへん?」

 は?

「俺の言うNTRとは自分と全く関係の無い第三者が酷い目に遭うもの。知ってる人やったらめっちゃ萎える」

 うーん。こいつなりのこだわりというものなのか。何にせよこいつの煩悩の数はとんでも無さそうだ。


「…やっとか」

 年は変わり10分ほど過ぎてやっと賽銭箱が目の前に見えるところまで来た。財布を覗き御賽銭の準備をする。が、しかし

「やばい小銭がない!」

 ここに来て突然の緊急事態。何度覗いても俺の財布には福澤諭吉が一人いるだけだ。

「一万円札ぶち込んだら来年ハーレムできるかな…」

「ハーレムに一万円は安いやろ」

 上本はここぞとばかりに笑う。

「…仕方ねぇな。10倍にして返せよ」

 健人が俺に10円玉を差し出してきた。

「サンキュー」

 ふっ、と健人は笑い自分の御賽銭を用意した。

 俺たちの番となりそれぞれが手に持つ小銭を投げ入れ平和を願い、列から離れた。

「健人は御賽銭いくら入れた?」

「5円玉。ご縁がありますように…って意味を込めて」

「へぇー。考えてるな。上本は?」

「15円。十分なご縁がありますようにって意味やな」

「おぉー。凄いな。俺ももうちょっと考えとけばよかったな」

「せやな。10円玉は言い方を変えて遠縁、縁が遠のくっていうネガティブな願掛けやしなー」

 は?

「まさか健人…そのこと知ってて…」

「当たり前だろ」

 清々しいまでのゲスっぷりだった。


「…ふぅ」

 俺は神社から近いコンビニで買ったホットミルクティーで温まっていた。上本と健人はおみくじを買うとかで別行動。一万円札でおみくじを買うことに何となく抵抗があったから俺は買わない。しかし正月から一人寂しくミルクティーを飲むなんてな。まぁ別にぼっちでいる事が嫌いというわけでもない。ゆっくり待つとするか。

「久しぶりだね凌哉」

「なっ…嘘だろ…」

 ぼっちを謳歌していた俺に声を掛けた人物こそ、中学の時の元カノ-皆美莉緒香(みなみりおか)だった。

「凌哉って雪校に通ってるんだよね」

「あぁ」

 雪校とは雪ヶ崎高校の略称だ。俺は甘くてもコーヒーは飲めないが。莉緒香は確か…

「私立の鳳泉(ほうせん)学園だよ」

 県内私立No.1高校か。つか俺の心が読まれてるのかよ…。

「何だよいきなり」

 とりあえず悪態をつく。

「さっきおみくじを引いたら復縁の可能性あり、って書かれてたのよ。そして今凌哉を見つけたって訳!」

 あぁ。それはそれは。さて、何と返そうか。この人怒らせるとめちゃくちゃ怖いんだよなぁ。

「莉緒香は今日誰と来たんの?」

「友達と2人で来てたんだけね、その友達がぐうぜん彼氏と遭遇して2人でどこかに行っちゃった」

 ということは…。

「今1人?」

「凌哉がいるから二人♪」

 ぐぬぬ…。

「俺はもう別れたつもりだ」

「凌哉が一方的に逃げただけでしょ?」

「確かに」

 納得してしまった。些細な事で生まれた歪によって引き裂かれた2人の仲は二度と戻ることは無かった、という感じに完結したつもりだったのに。告白されても安易にOKするものじゃないな。美人で巨乳で頭がいいショートヘアーなのに彼氏がいなかったのはとんでもない性格の持ち主って遠回しに言われてるようなものじゃないか。いやショートヘアーは俺の好みだけども。

「凌哉って今彼女いる?」

「今はいない」

「だよねー。凌哉に彼女なんて出来ないよね」

 何が愉快なのか理解できない。反論しようとしたところで莉緒香は続けた。

「私も今彼氏いないんだー。ねぇ私達やり直さない?これでも凌哉のことよく知ってるつもりだし、凌哉も私のことよく知ってるでしょ?」

「は?」

 思わず声に出してしまった。何が言いたい。

「さっき、″今は″って言ってたけど好きな人でもできたの?」

「ねぇよ」

「右上を見ながら言われても説得力がないよ?」

 やっぱり見抜かれてたか。

「諦めなよ。凌哉には無理」

「何のことだかさっぱり分からないな」

「嘘が苦手な人に恋愛は無理だよ。」

 莉緒香の表情は笑顔に見えるが、どうしても俺は笑ってるような感じがしない。合宿二日目の夜の可奈さんの言葉が今になって突き刺さる。『やっぱり凌哉くんだね』って。目の前にいる莉緒香と可奈さんは全く違うと分かっている。だが、一度恋愛で失敗すると次が怖くなる。イケメンなラノベ主人公なら口付けを交わし、告白でもするだろうな。

「俺は変わるのが怖い。だけど…大切にしたい人がいる。だから莉緒香と付き合うことは出来ない」

「ふーん…」

 強い明確な意思。

「何と無くだけど、そう言うと思った。」

「へぇ…本当に?」

「女の勘よ」

 そして莉緒香は笑った。

「何かあったら言ってよ。女っていうものを教えてあげる」

「それって…」

「変な勘違いしない!」

 デスヨネー。

「私は凌哉の幸せを願ってる。でもその代わり…」

「?」

 何か要求されるのか。

「男子の連絡先教えてよ」

 まぁそんなことだろうと思ったよ。健人か上本か迷うところだが…。割と迷って(ふくろう)の連絡先を差し出した。

 その後上本と健人と合流し、普通に帰宅した。後日莉緒香からクレームがきたのは言うまでもない。

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