合宿に行くチキンその9
ジャンケンでサーブレシーブを決めあとは1セットマッチを二つの台で行う。健人と藤宮さんの台は言うまでもなく健人がボロ勝ちで次は俺の番だ。ちなみに慎司は隣の台で必死こいて粘っている。カウントは2-5で負けている。
「よ、よろしくね鳥山くん」
「こちらこそよろしくね大松さん」
会話はそれだけ。後は軽くラリーをしてからジャンケンをすることに。そして
「じゃあサーブで」
ジャンケンで勝った俺はサーブを選んだ。
台に軽く球を転がし呼吸を整える。健人が勝ってくれたお陰で緊張は少ない。慎司だって粘ってるし運が良ければ俺で混浴決定…なんて事も考えられるが、ダメだ。いいイメージがわかない。女子陣は全員が浴衣を着ている。どうしても煩悩が邪魔をする。軽くジャンプをして集中する。ボールを上げ打つ。ネットスレスレの下回転。調べて動画見ただけにしては使える。慎司相手に結構通用したが、大松さんはどう出る。
「ほっ…」
クロスへのドライブ。ギリギリだがこれなら返せる。ラケットを当てに行く形で返す。
「らっ!」
決められてしまった。何だあのドライブ、完全に力で押された。浅く浮いたボールを思いっきり振り抜かれた。そこから俺は大松さんのドライブに為す術もなく4-11で負けてしまった。
「頼んだ黒田ここで終わらせないでくれ」
「任せろ一瞬で蹴りをつける」
黒田と俺はハイタッチをして見守る事に。
「お疲れ凌哉」
「あぁお疲れ様。お前試合は?」
「月詠先輩がラスト一試合は全員が見られるようにしようってさ」
なるほど藤堂先輩なら考えそうな事だ。露天風呂で聞こえた会話からして公開処刑って感じだな。
「今は黒田の試合を応援するしかないな」
慎司は汗だくで息が切れていた。音坂さん相手に7-11と善戦したんだから無理もない。そして黒田の試合が始まり黙ることに。男子は1-2で負けている。ここで黒田が勝たないと混浴に行けなくなる。何としても負けられない。黒田のサーブで試合開始。さぁどうなる。
内容はまさに一進一退。今は8-8。黒田はバスケ部時代に培ってきたフットワークでどこに球が来ても返していた。しかしチャンスボールが決められない。理由は単純明白。音坂さんの健康的な太ももがチラチラと見えていたからだ。これでは黒田はどころから俺と健人と上本まで試合に集中できないじゃないか。
「…絶景」
「太もも最高や!混浴なんて最初から要らんかったんや!」
「確かに負けた時の参加賞ってことならありだな」
慎司が何言ってんの?って目を向けてくる。これだからこいつはダメなんだ。
そして俺は気づいた。黒田がチャンスボールを決めようとする時に音坂さんの太ももがギリギリまで見えることに。恐らく視線を誘導するのが得意な可奈さんと藤堂先輩が仕組んだ事だろう。そしてまたチャンスボールを黒田が決められずカウントは9-10に。これはまずいな。ラリー戦では負けてないのにチャンスボールを外しまくっているのは痛い。チャンスボールをすべて決めていたら今頃勝っていてもおかしくない。
「クッ…すまないが…タイムだ」
「うん、オッケー」
ここでのタイム要請に対して可奈さんは快く笑顔で応じた。そして男子陣が集まった。
「気にすんな。負けたら混浴が無くなるってだけで割と困らねぇし」
これだから慎司はダメなんだ。
「…思いっきり振り抜いてこい」
「あぁ…」
黒田と健人がハイタッチ。
「粘れ。ここ何とかすれば後は俺がみんなを混浴に導いたるわ」
「あぁ…覇道の限りを尽くす…」
黒田と上本がハイタッチ。
「負けた俺が言うのもアレだが…結構いい試合になってるから。集中して返していこうぜ」
「当然だ」
ようやく黒田が笑い俺とハイタッチを交わした。
「行ってくる」
そう言った黒田の背中は何とも頼りがいがあった。
試合の方は再開され、ラリー戦になる。特に動きはなく至って平凡なラリー。そして
「…チャンスボールが上がった」
可奈さんはわざとらしくボールを高く上げ、音坂さんは浴衣から健康的な太ももが結構見えていた。
「ふっ…!」
決めた。これでデュースになった。可奈さんだけでなく、俺たちまで呆気に取られた。
「今のは我が眷属の分だ。」
そう言い黒田は12-10で勝利したのだった。




