合宿に行くチキンその7
今日の晩ご飯はすき焼きだ。全員が広間に集まった。名前がわからない固形燃料的なものが鍋の下で燃えている。この一人用のサイズがいいんだよな。ちなみに俺はすき焼きに卵は絡めない。卵が苦手だからだ。すき焼きだと牛肉が食べられる。味が結構変わってくるからな。
「…」
黒毛和牛が使われ、めちゃくちゃ高いすき焼きなのだろうが、男子陣は誰もテンションが上がらない。来たる決戦に向け集中力を高めている。今回ばっかりはコーラの美味しさを楽しめない。
「ごちそうさまでした。俺部屋に戻ってます」
ここで慎司退場。俺ももう少しで食べ終わる。
「ごちそうさまでしたー。行こか健人」
「おう」
上本と健人が退場。今日上本はご飯を7回おかわりしていた。最後の最後でガス欠なんて許されない。俺と黒田も食べ終わり、俺たちは部屋に戻った。
「お風呂行く?」
全員が部屋に集まり、慎司が提案してきた。
「当然だ…練習に費やした覇道を補給せねば…」
「部屋の露天風呂で良くね」
女子陣と会いたくない感もある。
「決まり。じゃあ部屋の風呂で」
全員が頷き、風呂に入る準備を始めた。
このやべぇ旅館は部屋にもデカい露天風呂がある。夜景を一望できるという何とも言えない感じだ。本当に至れり尽くせりで、あの拗ねデレ金持ちには頭が上がらない。
露天風呂のドアを開けると真っ先に冷たい風が襲ってきた。年末何だから当たり前といえば当たり前だが。急いで俺は温泉が一杯に貯められた浴槽に片足を入れる。熱い。だがこの寒い中だと丁度よく感じられる。
「あぁー生き返る」
どうやら慎司は死んでいたようだ。この温泉には蘇生効果もあるらしい。
「ほんまやでぇー。命の洗濯とはよく言ったもんやわー」
頭にタオルを載せた上本が言う。メガネを外したこいつは目が小さい。例えるなら擦り傷のカサブタくらい。
「じゃあここで卓球のオーダーを発表したいと思います!」
慎司がそう言うと、待ってました、とかはよはよ、などのリアクションが起こる。
「まずはS1。森重健人!」
「…任せろ。確実に一勝を取りに行く」
頼もしい。ゲーム練習全勝は格が違う。
「続いてS2は……俺今川慎司」
何だ今の間。
「そしてS3。鳥山凌哉!」
「頑張るぞい」
流石に健人が負けることはないと思う。慎司が負けても一勝一敗。俺で勝負が決まるということは無さそうだ。
「んでS4が黒田」
「格の違いを見せつけてくる」
流石に全敗は格が違う。
「ラストS5が上本」
「よっしゃ任せとけ!」
健人と上本で二勝。慎司と俺と黒田の三人で一勝できれば勝ち、ということだろうか。
「これは俺の予想だが女子の方は、S1音坂千尋。S2大松京子。S3小暮可奈。S4藤宮優妃。S5に会長が来る」
なるほど。ダブルエースの健人と上本を相手のダブルエースにぶつけると。片方が勝ち俺慎司黒田で二勝か。んなアホな。
「今は体を休めることだけを考えようぜ」
有無を言わさず慎司はそう言い何も聞かないようにした。
「ほんとうちの那月が申し訳ないです…」
奥の方から声が聞こえてきた。これはまさか
「気にしなくていいぞ優妃。2度と調子に乗れないように叩きのめしてやる」
藤堂先輩と藤宮さんの声だ。
「なぁ誰かドローン持ってへん?」
盗撮する気か。
「…いいアイデアがある。集まれ」
健人の指示に従い、慎司以外のみんなが集まる。全くノリの悪い奴だ。
「ここに黒田のラジコンのヘリコプターがある。これにスマホを取り付けて飛ばす」
「待て、スマホなどそんな重いもの付けられない」
「大丈夫だ黒田。生徒会メンバーの中で一番軽い上本のスマホを取り付ける。」
「おい待て健人。なんで俺のやねん。そもそも俺のスマホをつけてどうすんねん」
「簡単な話だ。ビデオ通話にすればいい」
なんという事だ。その手があったか…!
「上本、スマホを持ってきてくれ」
「凌哉まで…。わかった。持ってくる。」
上本が風呂から上がり、スマホを取りに行った。
「黒田、操縦を頼む」
「…了解した」
完璧と言える健人の作戦の支持に全員が従う。
「凌哉もスマホを持ってきてくれ。上本の携帯とビデオ通話をする」
「オッケー」
風呂から上がった俺の足は軽かった。




