チキンなオレ流席替え戦術
席替え-くじ引きによって席が決められる。時にそれは運命さえも決めてしまう。目の前にある見えない21枚のくじ。その中に俺の高校生活を左右すると言っても過言ではない、しかしその事を今の俺-鳥山凌哉は気がついていなかった。
文化祭を10日後に控えた今日10月8日の5時間目、それは何の予告もなく現れた。
「よぉーし今日は席替えをするぞー!」
担任教師-藤原の授業のはずだったが放たれた突然の席替え宣言。ある者は嘆き、ある者は喜び、ある者は祈っていた。
「何としても小暮さんの近くに…」
「いやいや凌哉そんなに祈っても所詮は運ゲー。何も考えずに引くべきだって」
必死の祈りもこの男-今川慎司に軽めの否定を受ける。
「そうそう。そんなに祈っても結果は変わらないよ?」
中原龍も今川慎司と同じ意見らしい。馬原と黒田は…めちゃくちゃ祈っていた。
「我が覇道に失敗などない…案ずるな己を信じろ…」
「一番前は嫌だ一番前は嫌だ一番前は嫌だ一番前は」
このクラスの一番前の席は授業で先生に当てられる確率が最も高い。というのもこの教室は他のクラスに比べ若干縦に長くなっている。それが一番前の当てられやすさとの繋がりは不明だが、今出来ることは祈ること。黒田はまぁ…音坂さんの近くがいきたいだけだろうが。
「それじゃあ今日は出席番号順に引くことな。僕は職員室にくじ取ってくるから、静かに待っとけよ」
そう言い藤原先生は去っていった。出席番号順…つまりは小暮さんは俺の前に引くという事だ。聞いた番号をさり気なく聞き出し、狙いが何番か絞る。席は黒板から見て左の一番前が1番、右の一番後ろが40番、という具合に縦に番号が増えていく仕組みだ。縦に八列横に五列という教室。とりあえず前後の番号を引けば勝利確定。ある程度離れていても隣になれる可能性もある。すべての運をこのくじにかける…!
「戻ってきたぞー。早く引いていけ」
担任の藤原が戻り、争いの幕が開ける。
出席番号一番の慎司が引きに行く。何も迷わず箱に手を入れ中の紙を取る。
「11番。一番前じゃないだけラッキーか」
慎司は左から二列目の前から3番目の席になった。
それから何事もなく、くじ引きが行われていった。そして-
「おい凌哉、小暮は39番だ40番を引きにいけ」
「偵察ご苦労。いってくる」
慎司がさり気なく見に行ってくれた。出席番号二十番の俺は自分の番となりくじを引いにいく。
目の前の箱には21枚のくじが入っている。前の席…38番は取られてしまっているが、後ろの40番が空いていたことは不幸中の幸いと言うべきか。
目を瞑り神経を集中させる。40番じゃないだけでなく一番前の席になるという最悪のケースを思い浮かべてしまった。ダメだ…迷いを捨てないとこの戦いには勝てない。だが21枚のくじは俺の決断力の弱さにつけこみ、俺からポジティブシンキングを奪う。どれだ…どれが40番なんだ。
「おーい鳥山早く引けー。」
「あ、はい」
集中していた所を先生に催促され思わずそこにあった紙を適当に引いてしまった。
「よし、鳥山は40番な。次」
え?マジですか。
「やったな凌哉!」
「これも慎司の偵察のお陰だ。ありがとう…!」
喜びが大きすぎて涙が出そうだ。
「席替えってだけで大袈裟だなぁ」
祝勝ムードの俺に梟の正論。もう少し空気が読めるようになればいいのに。
「席後ろだね。これからよろしく」
ニコッと微笑み握手を求めてきた。小暮さんが放つ言葉に俺の苦労が報われた気がした。
「あぁよろしく小暮さん」
小暮さんの握手に応じた、次の授業は興奮してまとに寝られなかった。




