夏休みの野球大会その5
黒田は市役所ヴォルフスの執拗なレフト狙いによる梟のエラーや梟の失策や梟の落球や梟のトンネルや梟のバンザイなどで毎回のようにランナーを背負う。サードの俺とショートの健人がほぼレフトの位置まで取りに行くが効果がない。晩年の金本のためにレフトにひた走る鳥谷の気分を少し味わった。4回の表まで投げて一失点。そして5回の表。試合時間が85分を過ぎ、次の回に進まなくなるためこの回を押さえれば俺たちの勝ちとなる。
黒田の初球。
「梟レフトいった!」
慎司が叫ぶ。
落球。
同点のランナーを出してしまった。しかもノーアウト。まぁここは送りバントだろう。
「くっ…我は…こんなところで…」
黒田の様子がおかしい。いや、元からおかしいと言えばそうだが…。
内野陣がマウンドに集まった。
「完全にふくらはぎが攣ってんな。とりあえず伸ばしてみるか」
「くっ…すまない慎司…」
夏の暑さと梟の守備のせいで結構な球数投げてるからか、足がガチガチになっていた。
「投手交代しかないな。とはいえ交代要員なんておらんし守備を変えるか棄権するかやな」
「待て…我が覇道は尽きてなどいない…あとアウト3つ取ってみせる…!」
「…無理するな他のポジションに回れ。」
「く…健人までそう言うのか…」
「…上本がテニスの試合でよくやってるし気にするなあとは凌哉に投げさせろ」
へ?
「おいおい健人君誰が投げるって?」
「…お前だよ凌哉」
なんでだよ。
「確かに黒田の次に球速出てたの凌哉やしなー。ここは凌哉に投げてもらわんと」
上本まで…。
「わ、わたしも鳥山くんの方がいいと…思う」
大松さんまで…
「んじゃあ黒田がファーストで大松さんがサードでいい?俺審判に守備の変更伝えてくる」
「了解した…」
「う、うん」
「いや、ちょ慎司」
こんな時だけ素早い。そして黒田と大松さんがベンチにグローブを取りに行った。
「とにかく外野まで打球が飛ばないようにするしかないな。特にレフト狙いされてるから引っ張られないように投げてこい」
「一応言っとくけど、球種ストレートしかないからな。」
「わかってるわかってる」
適当過ぎる。見よう見まねでナックルでも投げようか。
キャッチボールを終え、相手の選手が右バッターボックスに入る。
審判のプレイコールがかかり、俺は振りかぶって投げた。カキーンという金属音と共に打球は高く上がりレフト方向へ。一球目からやらかした。平凡なフライだが、梟は落下地点に入れていない。
「クソが…!」
ショートの健人が落下地点に全力疾走している。間に合うか…!
健人がスライディングキャッチに行く。
ズサーという音と共に砂が巻き上がりボールは健人のグローブからこぼれていた。




