夏休みの野球大会その1
「市内野球大会!?」
夏休みも後半戦に差し掛かろうというのにバイトか家でゴロゴロするかで夏休みらしいことをしていない俺に対しこの上本那月という人間は他人の家に上がり込んでドヤ顔でよく分からない野球大会に誘ってきた。
「いいやんどうせ暇やろ?出ようぜ」
「嫌だよ暑いし動きたくない。だいたいなんで突然野球なんだよ」
「お前野球好きやん。出ようぜ」
「俺は見る専なんだよ動きたくない」
「俺もやけどさぁー。せっかくの夏休みなんやし何か夏休みっぽいことしようぜ」
かろうじてそれは理解できる。
でも他に何かないのかよ。
そもそも突然野球とか言い出したんだ。
「お前さ、最近テレビで何見てんの?」
「高校野球」
それか。
影響されやすい奴だ。
「高校生の夏休みやし何もせずに過ごすのは間違ってる」
「それは正論だと思う」
確かに退屈だとは思っている。
でも暑いし動きたくないのが大。
「ちなみに優勝すると景品としてギフトカード3000円分が全員に配られる」
あー。
ちょっと出たくなった
「人数とかどうすんの?9人いるんじゃないの?」
「まぁベンチも入れて18人まで大丈夫らしいけど、まずはあと7人集めるところからやな」
「とりあえず健人と黒田と慎司は強制として。」
あいつらに拒否権はない。
「馬原とかどうなん?」
「あいつはダメだ旅行なうだ」
「使えねぇ…」
旅行なうというだけでここまで批判のされるのも変な話である。
哀れだ。
「慎司に頼んだりしたら女子とか誘ったりできるんじゃないん?」
慎司が誘える女子とは遠足で仲良くなったあの3人のことだ。例の遠足から慎司は連絡先を交換し頻繁にやり取りしているらしい。
でもなぁ…
「女子を野球に誘うのかよ…」
「しゃーない俺ら友達そんなにおらんし」
exactly。
高校生になり一学期が終了したが決して友達はそんなに多くない。
まぁ数より質だ。
少なく太い友好関係の方が大切だと俺は思うのである。
それはそれとして
「小暮さんも旅行らしいけど」
「うわぁマジかよ…。でもほかの2人はいけるんじゃないん?」
「俺が知るかよ。普通は予定が詰まってるものなんだよ」
「それはそうやけど…ってなんでお前が知ってるん?もしかして好きなん?」
上本がニヤニヤしながら聞いてくる。
気持ち悪いな。
当たり前だがこいつの笑顔は人を幸せにできるものじゃない。いや寧ろ人を不幸にしかしないだろ。汚物も同然だ。いっそ顔全体にモザイクを入れるのはどうだろうか。自主規制が必要だと思うのは俺だけじゃないはず。ここまで汚い笑みは…」
「いや聞こえてるから。誹謗中傷は口に出さず心の中にしてくれ傷つくから」
おっと。
どうやらまた無意識の内に口に出してしまったようだ。
「女子の都合は慎司が一方的に教えてくるだけなんだよ」
「なるほどなー。やっぱ慎司いい奴やなぁー。」
それがどういう意味なのかは聞かないでおいた。




