チキンな友達のチキンなデートその10
さて幼なじみであり五年間交際を続けた彼女の藤宮優妃と遊園地に来ていた俺…上本那月は友達であるところの鳥山凌哉、森重健人そして途中で吐いて退場した馬原一浩、その馬原に代わって呼び出された暇人の今川慎司に尾行されている。
まぁ一緒にジェットコースターに乗った時点で尾行もクソもないって感じなのだが。
俺は考える。彼らは心配で尾行しに来たのか、暇つぶしで来ているのか。
それとも見事に破局するのを期待してるのか、また逆の大人の階段を登ることを期待しているのか。
全部なんだろうなぁ…
しかしそれらの期待は儚く消え「那月お土産買いに行こ」
「待てや優妃もうちょいで終わるから」
頭の上に?マークを浮かべ首をかしげる優妃。
可愛い。機嫌を直してくれたんだろうか。
「いいから行こ。もう時間が無い」
前言撤回。
機嫌を直してくれてないし、そのうえ時間がなくて余計にイラついてるらしい。
「はいはいお嬢様の仰せのままに」
僕はキメ顔で「…キモイ」
「いくらなんでも寸止めは酷いわー。夜も寸止めばっかりやしさー」
「黙れ童貞」
「俺泣いていいやんな?ガラスハートが粉々やで…」
「… いいからお土産買いに行こ」
「はい…」
この遊園地はそこまで大きくはないが、一応お土産コーナーもありマスコットキャラのグッズ等が置かれている。
だがしかし…
「落ち着いて考えたらここ近所やん。いちいちお土産とかいらんやろ」
「うるさい店の前で待ってて」
「えぇ…」
半泣きになりながら店を出る俺。
あいついくらなんでも酷すぎる。
もう5年も付き合ってるのにこの扱い、結婚したら尻に敷かれそうだ。
アハハうける。
友達のデートを邪魔しに来た俺…鳥山凌哉は上本那月を追いかけた。
すると…
「なぁ、あいつらもう別れたんじゃね?」
「慎司いくらなんでもそれは酷いって。いくら一人でお土産コーナーの前で半泣きになりながら虚空を見つめてるからってまだ別れてはないだろうよ」
悲しいことにリストラされたサラリーマンが公園で絶望してるときの表情をしているが、仮に別れたとしたらすぐ帰るだろう。まだセーフだと信じたい。
「…俺達の…勝ちだ…!」
健人の言葉でふと思い出した。
「そういえば俺達あいつらが別れるのを見に来たんだっけか」
俺の言葉に慎司も「あー…」と声を出す。
なんだかんだで俺達はあいつらを心配して来ていたのかも知れない。
まぁ、上本のことだし大丈夫だろ。
マイペースでキチガイでバカだが本当にやる時はやる男だ。
「頑張れよ」
俺は心の中でエールを送り遊園地をあとにした。




