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チキンなオレ流高校生活!  作者: 仁瀬彩波
105/106

可愛いだけじゃない音坂さん

 圧巻のピッチングだった。

 サイドスローから放たれるストレートは最速112km/hを記録し、全てのパネルをぶち抜いた。

 俺もかなり善戦した方だった。球速は自己最速となる94km/hを記録した。早くないかも知れないが俺は一般男子テニス部員だ。いきなり100マイルの豪速球を投げられたりはしない。そして肝心のパネルの数だが、僅か3枚に留まった。

 3.6.9のパネルという右バッターのインコースに抜群のコントロールを披露することに成功したのだが、何故か一番当てやすいであろう5のパネルには当たる気配すらなかった。

 かくして俺は可愛いだけじゃない音坂にコテンパンに叩きのめされたのだった。


「これで永秀は私のモノだから」

 僅か10球で全てのパネルをぶち抜いたサウスポーはカッコイイだけの笑顔でそう言った。


 激闘の幕が下りる頃には雨が止み、日差しが戻っていた。若干雲が残っていたがそれもそれで夕焼けの良いアクセントとなりとても綺麗だった。

 俺たちはバッティングセンターに2人を残し帰路に就いていた。

「実戦なら右打者にデッドボール連発だな。どうして那月は外角に投げられないんだ」

「そんなこと気にします?」

 コントロールが良ければあの夏の大会で黒田の代わりに投げている。ちなみに球種はストレートとションベンカーブだけだ。

「でもあの二人なら今更問題ない気がするね。黒田君は千尋ちゃんにメロメロだもんね」

 キャーキャーと皆見さんは歩きながら言う。

「それにしても音坂があんなにカッコつけるなんて意外オブ意外っすね。可愛い格好をしてきた意味がほんまに分からん」

「何故分からないのか理解に苦しむ」

 月詠先輩は呆れていた。

「だって矛盾しません?今日可愛い音坂千尋で行くなら告白の瞬間まで可愛くあるべきじゃないですか?」

「あのなぁ那月」

 ワンナウツで聞いたことのあるフレーズ。

「恋する乙女とはいつだって想う人の理想で居たいものなのだよ。」

 そういうものなのか。

「ところで上本君」

「なんや?」

「今回本当に私必要だったかな?」

 皆見さんの問い答えられる者はいないだろう。


「っていう事があったんやけど」

「夜中には押し掛けて迷惑だとか考えなかったの?」

「HAHAHA。俺と優妃(ゆうひ)の間に迷惑なんて概念はない」

 夜、デートを見届けた後、俺は藤宮優妃(ふじみやゆうひ)の家にお邪魔していた。いや俺と優妃の間に邪魔とか迷惑とかいう概念は無かった。

「そんなことより、うちが聞きたいのは千尋はミニスカートで投げてたってパンチラ的に大丈夫だった……?」

「もし俺が見たって言ったら?」

「那月の両の目をくり抜いて千尋に差し出す」

 赤司くんかよ。

「いや見てない。左投げの音坂が左側のレーンで投げて右投げの俺は右側のレーンで投げたから」

 つまりお互い背中を向け合うことになり、ただただ健全なストラックアウトになった。

 音坂が投球中に皆見さんが「大人っぽい…」とか呟いていたのは聞こえなかったことにする。

「優妃はさ」

「ん?」

「好きな人の前では理想の自分でいたいと思う?」

 優妃は怪訝そうな顔をした。

「好きな人の前じゃなくても理想を演じるのが人間じゃない?」

 確かに。


「ところで成績はどんな感じ?」

「ほぇ?」

 唐突過ぎて変な声が出てしまった。

「どうせ那月の事だから留年ギリギリなんじゃないの?もうすぐ進級判定でしょ?」

「確かにギリギリやけど二学期の期末テストで学年6位取ったから流石に大丈夫やと思う」

 三学期は学年末テストしか無く、出題範囲がかなり広い為月詠さんに付きっきりで教えて貰っても大した結果には結び付かなかった。

「うちが心配してるのは提出物とか授業態度とかで」

「それなら大丈夫やな。最近はそこまで授業中に寝てない」

「はぁ……」

 目に見えて呆れられてしまった。俺の授業態度に関しては中学生の頃に散々見ているハズだ。

「生徒会メンバーで不安なのは凌哉と健人だけやな。あの二人は全体的に酷いからリアルな留年が有り得る」

 更に健人はこの期末テストに提出物を一切出さないというかなり攻撃的な態度を取っていた。

「でも3教科までは落とせるんでしょ?仮進級で落ち着くんじゃない?」

「俺もそう思う」

 俺達には生徒会メンバーという肩書きがある。授業態度はさておき、この雪ヶ崎高校に貢献した事を考えれば情状酌量が認められて留年は回避出来るだろう。

「それもこれも決まるのは来週の月曜日。仮進級か留年なら学校から電話が掛かってくるから震えて眠ることになるわ」

「電話……なるほど親にもバレるって事ね」

 本当にこの学校は性格が悪い。

「優妃はどうなん?成績とか」

「普通」

 という事はかなり良かったらしい。己に課すハードルは常に高いお姫様だからな。

「それは良かった。んじゃそろそろお暇するわ」

「あぁ帰るんだ。おやすみ」

 夜分遅くにお邪魔しましたと優妃のお母様に挨拶をし、藤宮家を後にした。

 さて、帰ったら留年しないように祈りながら寝るとしよう。そう思い帰宅し、長い一日が終わった。

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