チキンな友達のチキンなデートagainその11
扉の奥から聞こえてくるか弱い声は普段自信に満ち溢れるような厨二口調とはかけ離れたものだった。
「俺の聞き間違いか?なぁ黒田。お前どうしたねん」
黒田は雷が苦手。以前生徒会の仕事をしている時夕立と共に雷が鳴り響いたことがある。黒田は少し怯えていたが、トイレに閉じこもったりはしなかった。
「こんな建物の中やねんから大丈夫やろ」
音坂と皆見さんと月詠先輩は心配そうにこちらを見つめていた。
この土砂降りの中バッティングセンターに行こうとする人は他に居らず、俺たち5人と店員のおっちゃんがカウンターで金属バットを磨いている。
「雷がダメなんじゃない……男として千尋ちゃんを守れない……ボクは千尋ちゃんの隣に立てない……」
厨二という仮面は剥がれ落ち扉の向こう側には、ただの黒田永秀が居た。
俺と黒田のストラックアウト対決なんて八百長抜きにしても勝ち目はない。
普通にやれば黒田の圧勝だろう。ただ、この雷雨の中でビクついた黒田がまともに球を投げることが出来るのか、大好きな音坂を賭けたストラックアウトという圧倒的なプレッシャーの中で普段通りに投げる事が出来るのか。そういった重圧により仮面は剥がれ落ちたのだろう。
見るも無惨な男の姿だった。クソダサい厨二を最後まで演じる方がよっぽど良い。
「どいて。上本君」
音坂に肩を掴まれて場所を譲った。というか無理矢理譲らされた。
「永秀ごめんね。私永秀に甘えてた」
音坂は右手を扉に手を当て声を掛けた。
「永秀の代わりに私が上本君を倒すから待っててね」
そう言い残し扉を軽くノックし彼女は店員のおっちゃんにグラブの貸出を申し出た。
「千尋が代わりに投げるのか?」
月詠先輩が音坂に問いかける。
「はい。永秀の代わりに私が上本君を倒します」
音坂はそう言い左利き用のグラブを俺に向けてきた。
「上等やん。ウンコマンよりよっぽど度胸がある。なら全力でいかせてもらうわ」
左手を右利き用のグラブに入れ、戦う準備を済ませた。
「だけど、その……なんだ千尋は今の格好で大丈夫なのか……?」
心配そうに月詠先輩は音坂に尋ねた。
それもそうだ今日の音坂は珍しくミニスカートを着用していた。珍しすぎて槍は降らなかったが土砂降りになってしまった。
「いいですよ別に。上本君しか居ないし減るもんじゃないです」
「そうか……なら全力で那月を倒してこい!」
月詠先輩はどっちの味方なんだろう。
「上本君覚えてる?あの夏の野球大会のこと」
「健人も合わせた3人でよくキャッチボールしてたっけ。なんか随分時間が過ぎた気がするわ」
センターラインの俺たちは中継プレーの練習などで夏休み中に何度かキャッチボールをしていた。
そんな俺だから分かる。音坂のコントロールというのはあまり良くない。この俺に勝ち目があるくらいに。
「勿論私が負けたら上本ハーレムの一員になるから……全力で戦ってね」
そんな如何わしいグループを組織した覚えはない。




