チキンな友達のチキンなデートagainその10
ここまでのあらすじ。
県立雪ヶ崎高校生徒会のメンバーである黒田永秀と音坂千尋はどう見ても両思いである。しかし、奥手な2人は後一歩が踏み出せない。バレンタインデーに何とかデートの予定を作る事に成功したものの交際に発展出来るか分からなかった。
音坂千尋は生徒会長である藤堂月詠に相談する。しかし彼女も恋愛音痴であり交際の仕方などこっちが聞きたい位であった。悩んだ末に生徒会メンバーの中で交際をしている上本那月、鳥山凌哉、小暮可奈に相談する。……が奥手な2人を交際に発展する方法があるのなら、ここまで長く両片思いにはなっていないという当然の結論に辿り着く。
このままではこのデートが上手くいかず、生徒会の中で気まずい空気が流れてしまう。
生徒会メンバー全員を愛して止まない藤堂月詠はそれだけは避けるべく、ある方法に辿り着く。
2人のデートを尾行し、気まずくならない為に助け舟を出すと。
鳥山凌哉、上本那月、森繁健人に何らかの方法で黒田永秀とデート中に連絡を取れるように指示し、円滑なデートの進行の補助を試みた。なお森繁健人は体調を崩した事で今回は出番がなかった。
デートの途中鳥山凌哉は突如バイトの予定が入り、無念の途中離脱。そんな鳥山凌哉が代役に選んだのは、友達としてなら可愛いが付き合うと面倒くさくなるタイプの女子で元カノである皆見莉緒香だった。
男女交際における酸いも甘いも知り尽くした女の合流でデートはいい方向に向かう、と思われたが皆見莉緒香のスマートフォンの画面には降水確率100%の天気予報と表示されていた。このままでは夕焼けの観覧車の中で告白するという目標が実現不可能になってしまう。
作戦を練り直し、舞台は雪ヶ崎ベースボールセンターへと移される。そして音坂千尋を賭けた上本那月と黒田永秀のストラックアウト対決が幕を開ける。
「はずやったのに」
大して広くも無い街のバッティングセンターから姿を消すのは現実的に不可能である。雷混じりの土砂降りの中傘を持たない黒田が外に出てるとは考えずらい。
何より音坂さんを置いて帰る事は幾ら雷が怖くてもしないはず……だと信じたい。
となると黒田が隠れている場所は一つくらいしかない。俺はバッティングセンターのトイレのドアを叩いた。
「おいクソ野郎……いやウンコ野郎。そこに隠れてるのは分かってるねん。音坂さんを取られたくなかったら早く出てこいウンコマン」
「……」
返事はない、がロックが掛かってるので黒田で確定だろう。店主はお店の金属バットを磨いているし、生徒会メンバーと皆見さんは心配そうにこちらを見つめている。
「……構わない」
「あぁ!?」
怒り半分と困惑半分の声を出し、外では更に大きく雷鳴が轟いた。
「ダメなんだ……ボクには……千尋ちゃんを守ることも隣に立つ資格すらないよ……」
いつもの厨二発言ではない、弱々しく啜り泣くような声が扉の奥から聞こえてきただけだった。




